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Prologue of Tragedy

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 .2 .3 .4 | 投稿日時 2013/6/23 11:51
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ティ・ラフィール連合国(TLUN-SC: Ti Lafael United Nation - Supreme Council)のEpisode集です。

歴史上の裏設定や裏記録ですので、外交上に一切の影響を与えないものとします。

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 | 投稿日時 2013/6/23 11:57 | 最終変更
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○複痛フィルネスティ

 一定の間隔を守り、つるはしが落ちる。それは鉱石を粉々に砕け散らせる。
 一定の間隔を守り、荷台車は動いて行く。それは砕け散った鉱石を製鉄所へ運んで行く。

 此処は鉱山。此処は希望の山。
 某国の巨額の投資を受け、高価な機材を使いせっせと作業員たちはウラン鉱を掘り出して行く。

 けれど、哀しきかな、今、その鉱山は地獄そのもの。絶望そのもの。
 呻き声を上げ、贓物は腹からはみ出し、腕は千切れ。蛆虫が死肉を食らい、ぶくぶくと太り、子を為す。
 それは、全く現実味がなく、かといって目を背ける事の出来ない現実だった。その中で、また、一人、断末魔を上げながら魂を散らせる。
 その身体は塵のように焼却炉に捨てられ、まとめて燃やされる。そして、そのエネルギーは発電所にまわされる。

 作業員は想う、この外に広がっているのであろう、ルフトシュロスの絶景を。
 この絶望に満ちし鉱山からそれを今、見る事は出来ない。
 ただ、外が恋しい。

 ただこの中で、嗤い、歓喜し、狂笑を上げ、妖艶さと婉然さが入り混じった笑みを浮かべるのは。
 「傾国者」――アイリス・キルヒアイゼン、ただ一人。


○壊人ドメスティック
「あら、お兄様。お帰りなさい」

邸宅戻り、使用人の挨拶も無視して真っ先に自分の部屋に向かうと。
そこにいたのは、今となっては唯一の家族。愛しき妹。
「ああ、只今。今日もお偉いさん方に囲まれてきたよ」
「そうでしたか。私もウラン鉱山の視察に出向いて参りました」

「ふむ、そうかい。どうだった、開発具合は」
「そうですね、某国の援助もあり開発は概ね順調。落盤事故もあり死傷者も出ましたが。
 仕方ありませんね、国の礎を築く為なら。少々の犠牲は、伴うものです」

くすくす、と妹は嗤う。しかし私は思う。
我が妹ながら、「恐ろしい」と。いつから妹は、こうなってしまったのだろうか?
「…お兄様?怖い顔になっていますよ……?」
「ああ、我が妹ながら恐ろしい、とね。……ところで、アイリス」
愛しき妹はきょとん、としながら首を傾げる。
その仕草の一つ一つは、幼い風貌ながら成熟した女性のような情欲を掻き立てる。
「お前までこんな政治の世界に身を置くことはない。良い伴侶を見つけて、
 恋に焦がれる少女として過ごす事も出来る。今からでも遅くない、評議員を――」
その言葉を最後まで発する事は出来ず。妹の小さな指が、私の唇に当てられた。

「お兄様。私は、私の意思で。私の信念に基づいて、今の地位にいます。
 私は、許せない。母上、姉上を殺した平民たちが。それはお兄様も――同じでしょう?」

その声は。憎悪。哀愁。妄執。様々な感情が綯い交ぜになった、狂気の声だった――。


○音無きテイクエヌジィ

 その都市は希望だった。
 ティ・ラフィール連合国首都、アウセクリス。かつてはティ・ラフィール経済の中心地として繁栄し、巨万の富を集めし都。
 『希望の都』
 商人たちが珍しい品を集め、民はそれを買い求め。物で満たされ、幸せで満ち足りていた都。
 そして今は、戦乱で全てを失い、ただの瓦礫と化した没落した都。

 公国軍と革命軍の市街戦が繰り広げられた結果、全ては灰燼と化し、住まう者は悉く剿滅され。
 犯罪者が跋扈し、治安の悪化、衛生状況の悪化に伴い疫病が蔓延し、今では地獄を形容したかの如き有様。
 復興の為に死力を尽くすも、その度に略奪陵辱の憂き目に遭い復興すらままならぬ。
 
 それを変えたのは、他ならぬキルヒアイゼン家。自らが持つ財を全て投じ、私兵で治安部隊を組織し、
 三年ほど経った頃にはまだ廃墟の面影は残るものの、人が住まう事の出来る環境へと変貌させた。
 講和会議後、復興を指揮したキルヒアイゼン兄妹が評議員に当選したのもアウセクリスの民の支持を得た結果であり、
 自然な流れと言えるだろう。自然と商人達も戻り、かつての活気を取り戻そうとしていると感じ取った民は
 アウセクリスが良き方向に進む事を信じて疑わず、希望を持ち始めた頃。その希望、幻想は打ち壊され。
 復興を指揮した一人である、アイリス・キルヒアイゼン。

 彼女の手によって、絶望に変えられようとしている事は未だ誰も、知る由も無かった。

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 | 投稿日時 2013/6/23 11:59 | 最終変更
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○散れど消えず

この世界に、もし。「楽園」があるとすれば。
楽園の所在を尋ねれば、ティ・ラフィールを訪れた幾人かの旅人は、きっとこの地方の名前を挙げるだろう。
ヴォルニーエ地方。ティ・ラフィールを訪れた者で、知らぬ者はいない。

彼方まで続く黄金色に輝く小麦畑。色とりどりの果実樹。香り高い茶葉の常緑樹が織り成す、緑溢れる自然。
人々を絶望に突き落とした、九月鳴乱の折ですらこの地方は戦の気配などなく。
ティ・ラフィールで消費される食料の多くはここで生産されていた為、公国軍や革命軍に食料を輸出する事で危うい平和を保ち続けていた。
そんな、別世界のような地方の、一つの小さな村で。二人の人物は邂逅した。

「……ほう。偶然か、久しいな若造。最近は見かけなかったが」
椅子に深々と腰掛け、紅茶の香りを楽しむ老人。
「うるせぇな、こちとらあんたみたく暇じゃないんだ爺さん。アンタの呼び出しに一々応じてられん」
そして、対するは厳面の筋骨隆々とした逞しい軍服姿の男。

一人は文豪ニーチェの名を冠し、ティ・ラフィール連合国海軍の大長老であるヴィルヘルム・ニーチェ。
そしてもう一人は、ティ・ラフィール最高評議会の評議員の一人であり、軍務部長であるグラナ・ヴァルシュタイン。
どちらもティ・ラフィール連合国の軍事を取り仕切る要人。

「そう冷たい事を言うでないわ。わしとお前の仲であろうが?」
「生憎、俺はこんな渋面の爺に知り合いはいない。どうせなら美しい女性の友人が欲しい所だ」
そう軽口を叩き合い、他愛の無い話を紡ぎ続ける二人。然しグラナが突然、小声でヴィルヘルムに囁く。
「……ところで爺さん。最近、どうにも兵の動きが活発でな。私兵残党の類だ」
ここ数週間、南部地方で謎の武装集団が跋扈しているとの報告を受けていたものの、その実態はまだ掴めていなかった。
評議会内部でもキルヒアイゼン家とメイスナー家の権力闘争は続いており、それに関連しての事だとは容易に推測出来た。
「分かっておる。……また、近い内に兵乱が起きるだろうて。お主は関与せぬ方が良い、この国の将来を想うならばな」

渋面の老人は深い、哀しみの溜息をつき。

「……だが俺はなァ。悔しいんだ。莫迦貴族どもは自分の利益と権力のみに執着していやがる……いつ、この国は…平和が訪れるんだ?」
厳面の男は、顔を伏せながら静かに哭き続けた。

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2013/6/23 12:23 | 最終変更
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○綴り語りて国想悲話
「……そう。分かった、追って指示するよ。その場で引き続き治療に当たってくれ」
受話器を下ろし、一息。さっきから同じ事の繰り返しばかり。
「思ったより、大変なのですね……。」
「君がそれほど気に病む必要は無いと思うけどね?レーヴェンタール少将。ヘリは出してくれたんだからさ」
「……私とて、この国に剣を捧げた身です。国民が政争に巻き込まれ、死ぬ姿をただ見ている事は出来ませんから」

歯軋りをし、悔しさを滲ませる青い軍服姿の少女。それを煙草をふかしながら鼻で嗤う灰色の軍服姿の男。
「ハッ、中世の騎士らしいね。時代錯誤も良い所だけどさ」
「……何が言いたいのですか。階級は違えど同じ三軍の一つを預かる身、侮辱は許しません」
少女が鋭い眼光で睨みつけると、お手上げと言わんばかりに手をひらひらと振り降参のポーズを取る男。

少女の名は空軍を預かりし若手の勇将、リサリア・レヴェンタール。
男の名は九月鳴乱で名を馳せし陸戦の名将、フェリクス・シェーンハイト。
そして、黙し二人を冷ややかに見つめるのは――ティ・ラフィールの法を司りし「冷綴者」ベルン・ファウスト。

「……言っておくが。私は卿らの乱痴気騒ぎを見に来たのではない、法務部として「軍」に指示を与えに来たのだ」
「……失礼いたしました、ファウスト閣下」
「はいはい、分かりましたよっと。で、法務部長様が何の御用です、軍部なんかに」
面倒くさそうに執務席をぐるぐる回し煙草の煙をベルンに吹きかけるフェリクス。本来なら許されない行為ではあるのだが――

ベルンは冷たく、国の運命を左右する、命を下す。
「……何、簡単な事だ。卿らには、今より」
その声は、何よりも重く。
「少数の精鋭部隊による、アラン・メイスナー、及び南部出身の旧貴族の捕縛作戦を命じる」
その眼は、何よりも鋭く。
「また、捕縛が不可能であれば。射殺を許可する。極秘令だ。国を想い、憂うならば速やかに実行せよ」
その涙は、何よりも哀しい。

○異国を想い、奏で捧げる

 アラン・メイスナー。
 ティ・ラフィールにおいて、その名を知らぬ者はいないとされた傑物の一人。
 幼い頃より帝王学を学び、内政手腕だけならルキウス・キルヒアイゼンを上回る程と評され。
 次期南方公王領、公国の公王の一人となる予定"だった"人物。
 その生涯は、数多くの苦難に晒され。数多くの功績は、評される事なく、報われず。
 後世、大罪人として評される事になったが――首都復興や各地への復興物資を搬送する上で、
 最も貢献した、その功績と、人物は。政争に敗れ、歴史の闇に葬られようとしていた。
 

 「……ここまで、か」
 ふぅ、と溜息をつく。……追手も流石に、この迷路と化した地下道には苦戦しているようだ。
 無駄遣いの極みとしか言えないこの迷宮に、助けられる事になろうとは。

 「イナ、ンナ……今は、どんな姿でいるのだろうか」
 右大腿部から止め処無く溢れ出す、血。動脈でもやられているのだろう。
 もはや死は免れない。母を幼くして亡くし、寂しさを味わったであろう愛娘を一人残して死ぬ事には、悔いが残るが。

 そもそも。

 何故こんな事になったのか?と自身に問いかけるのは何度目になるだろうか。私の計画通りなら、完璧だった筈。
 ルーシェベルギアスに向かう飛行機を気づかれないよう南部に向かわせ、あの魔女――アイリス・キルヒアイゼンを拉致。
 そのままルキウス・キルヒアイゼンを引きずり出し、評議会を掌握するまでのプロセスは全て整っていた。
 それを――奴ら。あの無能貴族たち。裏の金を法務部に嗅ぎ付けられ、挙句に"あの"宝珠を私から奪って無辜の首都の民を
 殺戮し、結果としてティ・ラフィールの民を敵にまわした。

 それを見逃す程、あの傑物――ルキウス・キルヒアイゼンは甘くなかった。法務部を味方につけ。
 軍務部を抑えつけ、陸軍と空軍を掌握。さすがに海軍のご老体を動かすことは出来なかったようだが。
 結果として、戦の準備の整わぬ南部の私兵軍は強襲され、壊滅。私も惨めな姿を晒す羽目になった。

 「今更、悔いて、愚痴を零した所で、どうにかなるものでも……ないがな」

 誰の言葉だったろうか。味方は多ければ多い程良い。ただし、無能が一人いた時点で――その集団は、敗北が確定する。
 まさに正論。味方の質を見定めなかった、私の負けと言う訳だ。その点、北部は弁えていたと言う事だろう。

 「仕方、ない、か。 "至宝"は、イナンナの下へ――渡るだろう。
 だが、決して、この父の復讐など考えてはくれるなよ……あの公爵なら、上手く宥めるだろう、が」

 辺りが劫火で満たされる。私の身体も焼けて行く。だが、不思議と痛みは感じない。
 愛しき娘の写真を見つめながら、逝ける。これほどの僥倖があろうか、いやない。

 「すまないな、……イナンナ。我が宿敵、ルキウス。」

 数時間後。ティ・ラフィールの陸軍と空軍の合同部隊がアラン・メイスナーの死した場所を見つけた頃には。
 遺灰と思わしき、僅かな灰と。一厘の金盞花しか残っていなかった。

 そして、炎とそれにまつわる災禍や魔物を司りしティ・ラフィールの至宝。通称、"メイスナーのピンクスピネル"は
 ルーシェベルギアスのイナンナ・メイスナーの手に、渡った。

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2013/9/16 3:56 | 最終変更
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◆大切なモノは、手から零れ落ちて。

 宇宙空間を漂う、一隻の宇宙船。

 その宇宙船は、人類の叡智の集合体。かつては「太陽を箱に納めるに等しい」として不可能と思われていた核融合炉。
 それらを統括・制御し、宇宙船内部の居住区環境を人類にとって住み易く最適化する、高度な自律型人工知能。
 外壁の強度は隕石やミサイルが直撃しても難なく耐え、ブラックホールの引力さえも自力で脱出可能な、巨大なスラスター。
 しかしそれらのテクノロジーは、アルファケンタウリ星系第4惑星フリューゲルに近づくにつれ、殆どがロストテクノロジーと化した。
 ロストした理由は諸説あるが、後世一部の資料に記されている「蝕の日」と呼ばれる日から、長きに渡って人類を苦しめた外敵の存在が大きいであろう。多くの優秀な人材が失われ、宇宙船内部の人類もフリューゲルに到着した頃には、初期人口と比較すると大幅に減っていた。

 時は移ろい。
 フリューゲルに宇宙船が到着してから約480年後。ラトアーニャ君主共和国・南の都ルセナール。
 ルセナールにある大図書館の一つ、"紫煙の図書館/Irik Fergia"。ルセナールの繁栄の象徴として、君臨せし建物。
 その建物の地下には、タールウィル選帝侯――エリーゼ・シェルストリアの部屋があった。
 
 

 部屋に立ちこめる、甘い匂い。甘美な蜜の香り、しかし常人であれば意識が朦朧としてしまうような、劇薬。
 寝台の隣には、荒く、呼吸を繰り返す幼き少女。少し、"効きすぎた"のか、数分持たずに気絶してしまった。
 私はそのかわいらしい寝顔を見つめながら、彼女の髪を撫でる。

 "PiPiPi....."
 そこへ、無粋な通信音が鳴り響いた。余韻を楽しんでいたというのに、冷や水を浴びせられたような気分だ。
 衣服を整え、寝台の隣にある通信機を取る。通信の相手は、秘書の一人。
 気怠げな声で、通信に応じる。重要な連絡で無かったら、後でしっかり躾けようと思いながら。
 しかし。
 秘書のもたらした情報は私を歓喜させるに十分だった。
 
「……あら、そう?それは――」

 嬉しい誤算。まさか、彼の方から出向いてくれるとは――。彼が生きている事は、知っていたけれど。
 アズミリアの直系にも、興味はあったけれど、私の知るアズミリアはもういない。ずいぶん前に、寿命で亡くなったと聞いた。
 あのチームで、今も生きているのは彼と私だけ。
 聞けば、今ではかのレゴリス帝国の重鎮。彼との接触は、必ず私にとってプラスに作用する。

「さ、お持て成しの準備をしましょうか」

 長らく着ていなかった、大切なドレス。また着る日が来るとは思わなかったけれど。
 あの時と今では、私達は変わってしまった。貴方は変わっていなくても、私は変わり果ててしまった。
 それでも、一時。一時の夢でも、再会を喜ぶ事くらいは、許して欲しい。

―――480 years ago.

 その日は最悪の日だった。目の前で、仲間達が次々と力尽き斃れて逝く。
 しかし、それすらも私は最早"悲しい"と思えない程、人間らしさ――感情の欠落が進んでいた。
 魔物との、契約の代償。少しずつ身体を蝕まれ、作り変えられて行く。
 プリンセスと呼ばれる既知外の敵は、もうすでに目の前に迫っていた。

 彼との出会いは、私の初めての就職先である「オーダー・オブ・ワイルドファイア」。
 最終面接を行った会場で、私と同い年くらいの男の子がいた事は、少し記憶にあった。
 ただその頃の私は、アリオス兄様の手助けをしたくて、オーダーに志願したに過ぎなかった。
 彼の事は、同じチームに入った後もそれ程興味は無かったと言っていい。
 それでも、幾度も死線を彷徨い、その度に背を預けながら共に戦った戦友。時には自分を庇い、死から救い出してくれた。

 その彼が、襤褸襤褸の身体で尚、私を助けようとしている。死ぬかもしれないというのに。
 彼の後姿は、兄様によく似ていた。最愛の、唯一の家族であった兄様。
 魔物との戦いで、一年前に死んでしまった兄様。彼も、私を残して死んでしまうのだろうか。それは――"嫌"だ。
 "嫌"だと思った瞬間、"何か"が私の欠けた心を満たして行く。私は、敵に向かって走り――無数の氷の雨を、プリンセスに放ち続けた。
 そこから先は、もう殆ど覚えていない。無我夢中で戦い、気づいた時には手に一枚のカードをもっていた。
 足元には苦しそうに咽せながら血を吐く、彼の姿。助からない。一目見ただけで、それが分かった。
 ああ、私はまた残されてしまう。私にあなたを助け出すだけの力と、勇気があったなら。
 きっと、恐らく。そう遠くない未来で、二人で手を繋いで笑っていられたはずなのに。
 
 消耗し気絶している彼の頭を、自分の膝に乗せる。深い意味は、ない。暖かな布団の上では無いけれど。
 せめて、枕だけでも。彼の永い眠りが、安らかなものでありますようにと願いながら。
 暫くすると、彼が目を開けた。しかし、目の焦点は定かでなく、瞬きを繰り返すだけ。
 私は、そんな彼に必死に声をかけていた。助かるかもしれないと、そんな可能性の低い希望に縋りながら。
 だが彼は、どうやらもう耳が聞こえていないらしい。いくら声をかけても、返って来るのは苦しそうな呻き声だけ。
 私は、自分に出来る精一杯の笑顔で。流れる涙を拭いながら、彼に語りかけ続けた。
 すると彼は、私の頬を撫で。何かを、必死に。血を吐きながら私に言おうとして。そこで、息絶えた。
 彼の最期を看取り、私は。
 
「ごめんなさい、この言葉はもう貴方には届かないかもしれないけれど」
「ありがとう。――さようなら。」

 そっと、彼の頬にキスをして。ピンクスピネルの宝石の力を使い、辺りを劫火で包み込んだ。
 

 そして、今。
 遠い、古の記憶。所々の断片的な記憶だが、今でも鮮明に思い出せる。
 とても懐かしい記憶。彼は覚えているだろうか。そんな事を考えていると、駐機場に一人の人物が現れた。
 見知らぬ顔。でも、私には分かる。姿形こそ違えど、その魂は、相変わらず綺麗に"視えた"。
 

 ああ、この人が――。
 「……お久しぶりです。ヴァルターさん」
 数百年の時は、"とても"長かったです。

…To Be Continued

◆あとがき

執筆時間は一時間。文才は進化しません。何故なら、私の仕事は文才がなくてもいいからです:)
レゴリス先生のSSを見て少し描いてみよーと思いながら半ば自棄になって書きました。
恋愛要素が少し入ってますが、二度と書くなと自分を強く戒めました。

ちなみにこれはフリューゲルに至る前のお話が含まれています。もちろんIFの世界。
さあSFを題材としたSSを書きましょう:)

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2013/11/9 14:35 | 最終変更
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【プロファイル No.XX 魔法使いの世界】

――エリーゼ・シェルストリア。
その名前は、ティ・ラフィールの歴史やラトアーニャの歴史を紐解いても見当たりません。
しかし人々は、悠久の時を生き続ける"魔女"がいるらしい、と言う事を知っていました。
そんな魔女の、わずかな足跡の記録。

神様が不在の、堕天使と夢魔と黒騎士がいて、魔物が人々を脅かす世界で、生きてきた少女。
その世界には、ほんの僅かな幸せしかありませんでしたが、彼女は幸せでした。
ですが、悪い魔物に心を蝕まれた少女は、少しずつ、少しずつ。大切なものを失いました。

大切なものが何であったのかは、今となっては誰にも分かりません。
ですがある日、彼女は願いました。三つのものを、欲しました。

最初に少女は、「知恵」を望みました。

すると、知恵を手に入れた彼女は、あらゆる事象を知り尽くす事が出来ました。
そして、次に「勇気」を望みました。

すると、一人であっても、大きな壁を越えられるような勇気を手に入れました。
そして、次に「心」を望みました。

すると、魔物に蝕まれ、失いつつあった「人間らしい心」を、彼女は取り戻しました。
そして、やっと。「彼」と同じ、あるいはそれに近しい所に立てると思いました。

それは彼女が愛した、童話の世界のようでした。ブリキが心を、案山子が知恵を、ライオンが勇気を手に入れる事を願う物語。
しかし、三つの願いを全て叶えて間もなく、「彼」は死んでしまいました。
その原因は、今となっては誰も分かりません。

少女は、彼の死によって、考える事を放棄しました。そうする事で、現実から目を背けました。
そして少女は、知恵を失いました。欲したはずの、知恵を。

少女は、彼の死によって、強い意思を失いました。自分を蝕む、魔物に立ち向かう意思を。
そして少女は、勇気を失いました。欲したはずの、勇気を。

少女は、彼の死によって、自分を見失いました。自分と向き合う事を放棄したのです。
そして少女は、心を失いました。欲したはずの、心を。

かつて少女は、願いました。古今東西、誰の手によっても叶える事の出来なかった願い事。

「死者の蘇生」を。

あの時に、再び戻りたい。今は失くとも、必ずいつか。兄や、最愛の人や、仲間達がいる世界。
それは彼女が愛した、童話の世界のようでした。ある女の子が、元の居場所に帰りたいと望む物語。
彼女もまた、ほんの僅かな幸せしか無い世界であっても、今は失き人達がいる世界に戻りたいと望みました。

多くの人が、その為の犠牲となりました。しかし少女は、願いのためならばどんな犠牲をも厭いませんでした。
ティ・ラフィールの血。ラトアーニャの血。タールウィルの血。ルセナールの血。メイスナーの血、キルヒアイゼンの血。
多くの血を、「彼」を蘇らせる為に、貪欲に集めました。

しかしその願いは、叶えられませんでした。今まで、誰の手によっても叶えられなかった願い。
それは少女であっても、叶える事は到底無理だったのです。叶えられないと知った少女は、最後に――
「世界の終わり」を、願いました。

しかしその願いは、「彼」の手によって、叶わぬものとされました。それが少女にとって幸せだったのかは分かりません。
ただ言える事は、長い長い、色褪せた空はその色を取り戻しました。

かつて少女は誓いました。

これ以上の血が流れない国――あるいは世界を作り上げる事を。かつて国を想い、斃れて行った人々に誓いました。
赦しを請うことや、自分の行いを償う事はしませんでした。

その後の話は、誰にも分かりません。それはこれから先、綴られていく未来のお話。

◆あとがき

書く事と投下することが辛いです。ぼくにも知恵と勇気をください。
忙しくて心を亡くしかけているので心もください。
オズの魔法使い、中学生の頃に英語の教材としてよまされた記憶があるんですがなかなか好きな童話です。
暇があればご一読をば。

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2013/12/18 1:19 | 最終変更
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◆魔女の終日、暴君の歎き、世界の号哭(The first fairy tale.)

――アルターナ歌劇場「囀りの間」

 其処にいたのは、二人の人物。一人は、電撃婚約発表後退位した「古の魔女」エリーゼ・シェルストリア。もう一人は「新たな皇帝」シャルル・リュシー・オルレアール。オルレアール候家。其は遡れば、500年前の宇宙漂流時代に祖を持つ名家の一つであり、シェルストリア家の分家でもある。
 エリーゼ・シェルストリアの兄であるアリオス・シェルストリアの息子、アルバート・シェルストリアが父の死後オルレアール姓を名乗り、シェルストリア本家の継承権を捨てて以来、オルレアール家はその血筋を絶やすことなく現代まで生き延びた。

「ようこそ、新皇帝陛下?」

「久しいな、魔女」

 嫣然とした余裕のある笑みを浮かべ、作法通りの会釈をする。古から生きる私にとって、眼前の青年はひよっ子も当然。そう思っていた。しかし、どうしたことか。目の前の青年の視線と表情から感じるのは、圧倒的な威圧感、老獪さと狡猾さを併せもった傑物の顔。
 過去、幾人もの天才と呼ばれた人物と相対した時でさえ、このような――ある種の恐怖感を感じる事は稀ではなかっただろうか。かの偽神や堕天使、黒騎士の気迫に勝るとも劣らない。近いのはルキウス・キルヒアイゼンであろうか。いや、アラン・メイスナーだったかもしれない。

いや、それ以上なのかもしれない。オルレアールの500年の妄執を全て背負ってきたかのような。

 ある人は彼を狂人であると疎んだ。ある人は彼を天才であると賛した。ある人は彼を乱世の梟雄、治世の凡人と評した。今、その理由がよくわかった。理解した。曇天のような色の、淀みきった虚無的な双眸。そこから私が先ず感じたのは深淵。見続ければ見続けるほど奈落の底に追い詰められてしまうかのような。

「どうした魔女、余の眼を見つめて。気色が悪い」

「……あ、あら。そう、ごめんなさいね」

「一々癪に障る女だ。……して、魔女。何が目的だ?
忌み嫌っているはずの余を皇帝の座に就けると言った時には驚いたものだが、それはこの際いい」

「何かお気に召さなかったかしら」

パルシア帝国大幹帝国もこの際良い。いざとなれば、殲滅蹂躙陵辱あるのみ。
だが、エーラーンとレゴリス。あれは、どういうつもりだ。まさか色狂いになった訳でもあるまい」

「失礼ね、彼とはそんな関係には今の所……無いわ。
……だけど、二大国と仲良くしておく事はクラーシェの国益にも叶うことよ?出来れば、だけれど」

 カールスラント戦役やフリューゲル世界大戦でエーラーン教皇国との仲は最悪な状態といってもいい。一歩間違えれば、爆発しかねない程に。今の同盟には教皇国と戦う余裕などない。だから私の代でセッティングと交渉提案を行い、次代の彼の初仕事に相応しいといえるであろうエーラーン教皇国との会談。ここで、実績を積ませる必要がある。そうしなければ魑魅魍魎ばかりの選帝侯の中で権力を保つことは難しい。

「……クラーシェの国益など、余にはどうでもよい。
クラーシェという国家は盤上の遊戯を効率良く愉しむための道具に過ぎぬ。余が関心を示すのは世界征服のみ、即ち覇道」

「恐ろしいものね。レゴリス帝国の前総統は8桁を殺してみせた。
貴方は何桁を殺してみせるのかしら?9桁?10桁?もっとも、そんなに殺していたらこの世界は滅びてしまうでしょうけれど」

「下らん。なるほど、確かに命とは尊いものだ。
だが、余がひとたびそれを娯楽の種とすると決めた以上、あらゆる生命は余の玩具だ。世界の行く末など余の知った事ではない」

「そう、ならいいじゃない。エーラーンとレゴリスとの友好関係を保ちながら、先ず最初にAFN加盟諸国でも滅ぼすと良いわ。
応援してあげる。その次は共産主義者?その次は――」

「魔女、貴様はどうにも喧しいな。少しその口を塞げ」

その瞬間、私の体は宙に浮き――直後、近くのソファーにたたきつけられた。

自分の身に、何が起きたか把握できない。

私は、――何を、された?……いや、この感覚は、どこかで。

鈍い痛み。

私の頭を踏みつける足。
顔はソファーに押し付けられ、喋るところか呼吸すらままならない。

微かに見える。彼の手にある機械――なるほど、私と"同じ力"。力量でいえば、私以上かもしれない。それだけ精度と錬度の高い念動術。
どこでこんな力を手に入れたのかは分からないが、これをどうにかする術を私は持ち合わせていなかった。

「貴様が指図をするな。余がどこを滅ぼすかは余の気分次第。貴様が築き上げたクラーシェの総力で余は世界を征服する。
魔女、貴様はレゴリスの総統を籠絡してさえいればよい。くれぐれも余の邪魔をするな」

「あなた、は……怪物、ね。貴方、に、よっては誰も……救われることが、ない。
…そして、誰も、貴方を……救え、ない。そう、ただ周囲に……災厄、と、終焉をもたらすだけの、怪物」

「怪物、怪物か。ク、……クク、クハッ!何とも良い響きではないか!
ああそうとも、だからこそ余は比類無き王者として君臨できる!500年の呪縛と妄呪を抱く貴様といえども余を凌ぐ事叶わぬ!」

 哄笑しながら彼は私の頭を足蹴にし続ける。髪はもう乱れきってしまい、ドレスも襤褸襤褸になってしまった。が、今の私にはそれはもうどうでも良いものに感じられた。

 彼の姿に、亡き兄様の姿を見たから。私と兄様の悲願。痛みと虚無を知る彼ならば、きっと。違う形であっても、叶えてくれるのかもしれないと。私の呪縛も、ここで捨て去れるのかもしれないと。―――そう思うと、一筋の涙が……頬を、伝った。

◆あとがき
執筆時間は30分+見易く改行諸々をするのに5分くらい。
ちょっと色々な所から台詞はお借りしています。もうちょっと捻りのある文章にしたいなあとは思うんですが。
あ、文才成長してねえなあとかそんな突っ込みは無しで。

あっ、ちなみに世界征服なんてクラーシェはこれっぽっちもたくらんでおりません。今の地位で十分に御座います。

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