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Re: Prologue of Tragedy

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なし Re: Prologue of Tragedy

msg# 1.1.1.1
depth:
3
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2013/6/23 12:23 | 最終変更
ゲスト    投稿数: 0

○綴り語りて国想悲話
「……そう。分かった、追って指示するよ。その場で引き続き治療に当たってくれ」
受話器を下ろし、一息。さっきから同じ事の繰り返しばかり。
「思ったより、大変なのですね……。」
「君がそれほど気に病む必要は無いと思うけどね?レーヴェンタール少将。ヘリは出してくれたんだからさ」
「……私とて、この国に剣を捧げた身です。国民が政争に巻き込まれ、死ぬ姿をただ見ている事は出来ませんから」

歯軋りをし、悔しさを滲ませる青い軍服姿の少女。それを煙草をふかしながら鼻で嗤う灰色の軍服姿の男。
「ハッ、中世の騎士らしいね。時代錯誤も良い所だけどさ」
「……何が言いたいのですか。階級は違えど同じ三軍の一つを預かる身、侮辱は許しません」
少女が鋭い眼光で睨みつけると、お手上げと言わんばかりに手をひらひらと振り降参のポーズを取る男。

少女の名は空軍を預かりし若手の勇将、リサリア・レヴェンタール。
男の名は九月鳴乱で名を馳せし陸戦の名将、フェリクス・シェーンハイト。
そして、黙し二人を冷ややかに見つめるのは――ティ・ラフィールの法を司りし「冷綴者」ベルン・ファウスト。

「……言っておくが。私は卿らの乱痴気騒ぎを見に来たのではない、法務部として「軍」に指示を与えに来たのだ」
「……失礼いたしました、ファウスト閣下」
「はいはい、分かりましたよっと。で、法務部長様が何の御用です、軍部なんかに」
面倒くさそうに執務席をぐるぐる回し煙草の煙をベルンに吹きかけるフェリクス。本来なら許されない行為ではあるのだが――

ベルンは冷たく、国の運命を左右する、命を下す。
「……何、簡単な事だ。卿らには、今より」
その声は、何よりも重く。
「少数の精鋭部隊による、アラン・メイスナー、及び南部出身の旧貴族の捕縛作戦を命じる」
その眼は、何よりも鋭く。
「また、捕縛が不可能であれば。射殺を許可する。極秘令だ。国を想い、憂うならば速やかに実行せよ」
その涙は、何よりも哀しい。

○異国を想い、奏で捧げる

 アラン・メイスナー。
 ティ・ラフィールにおいて、その名を知らぬ者はいないとされた傑物の一人。
 幼い頃より帝王学を学び、内政手腕だけならルキウス・キルヒアイゼンを上回る程と評され。
 次期南方公王領、公国の公王の一人となる予定"だった"人物。
 その生涯は、数多くの苦難に晒され。数多くの功績は、評される事なく、報われず。
 後世、大罪人として評される事になったが――首都復興や各地への復興物資を搬送する上で、
 最も貢献した、その功績と、人物は。政争に敗れ、歴史の闇に葬られようとしていた。
 

 「……ここまで、か」
 ふぅ、と溜息をつく。……追手も流石に、この迷路と化した地下道には苦戦しているようだ。
 無駄遣いの極みとしか言えないこの迷宮に、助けられる事になろうとは。

 「イナ、ンナ……今は、どんな姿でいるのだろうか」
 右大腿部から止め処無く溢れ出す、血。動脈でもやられているのだろう。
 もはや死は免れない。母を幼くして亡くし、寂しさを味わったであろう愛娘を一人残して死ぬ事には、悔いが残るが。

 そもそも。

 何故こんな事になったのか?と自身に問いかけるのは何度目になるだろうか。私の計画通りなら、完璧だった筈。
 ルーシェベルギアスに向かう飛行機を気づかれないよう南部に向かわせ、あの魔女――アイリス・キルヒアイゼンを拉致。
 そのままルキウス・キルヒアイゼンを引きずり出し、評議会を掌握するまでのプロセスは全て整っていた。
 それを――奴ら。あの無能貴族たち。裏の金を法務部に嗅ぎ付けられ、挙句に"あの"宝珠を私から奪って無辜の首都の民を
 殺戮し、結果としてティ・ラフィールの民を敵にまわした。

 それを見逃す程、あの傑物――ルキウス・キルヒアイゼンは甘くなかった。法務部を味方につけ。
 軍務部を抑えつけ、陸軍と空軍を掌握。さすがに海軍のご老体を動かすことは出来なかったようだが。
 結果として、戦の準備の整わぬ南部の私兵軍は強襲され、壊滅。私も惨めな姿を晒す羽目になった。

 「今更、悔いて、愚痴を零した所で、どうにかなるものでも……ないがな」

 誰の言葉だったろうか。味方は多ければ多い程良い。ただし、無能が一人いた時点で――その集団は、敗北が確定する。
 まさに正論。味方の質を見定めなかった、私の負けと言う訳だ。その点、北部は弁えていたと言う事だろう。

 「仕方、ない、か。 "至宝"は、イナンナの下へ――渡るだろう。
 だが、決して、この父の復讐など考えてはくれるなよ……あの公爵なら、上手く宥めるだろう、が」

 辺りが劫火で満たされる。私の身体も焼けて行く。だが、不思議と痛みは感じない。
 愛しき娘の写真を見つめながら、逝ける。これほどの僥倖があろうか、いやない。

 「すまないな、……イナンナ。我が宿敵、ルキウス。」

 数時間後。ティ・ラフィールの陸軍と空軍の合同部隊がアラン・メイスナーの死した場所を見つけた頃には。
 遺灰と思わしき、僅かな灰と。一厘の金盞花しか残っていなかった。

 そして、炎とそれにまつわる災禍や魔物を司りしティ・ラフィールの至宝。通称、"メイスナーのピンクスピネル"は
 ルーシェベルギアスのイナンナ・メイスナーの手に、渡った。

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