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Re: Prologue of Tragedy

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なし Re: Prologue of Tragedy

msg# 1.2
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1
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2013/9/16 3:56 | 最終変更
ゲスト    投稿数: 0

◆大切なモノは、手から零れ落ちて。

 宇宙空間を漂う、一隻の宇宙船。

 その宇宙船は、人類の叡智の集合体。かつては「太陽を箱に納めるに等しい」として不可能と思われていた核融合炉。
 それらを統括・制御し、宇宙船内部の居住区環境を人類にとって住み易く最適化する、高度な自律型人工知能。
 外壁の強度は隕石やミサイルが直撃しても難なく耐え、ブラックホールの引力さえも自力で脱出可能な、巨大なスラスター。
 しかしそれらのテクノロジーは、アルファケンタウリ星系第4惑星フリューゲルに近づくにつれ、殆どがロストテクノロジーと化した。
 ロストした理由は諸説あるが、後世一部の資料に記されている「蝕の日」と呼ばれる日から、長きに渡って人類を苦しめた外敵の存在が大きいであろう。多くの優秀な人材が失われ、宇宙船内部の人類もフリューゲルに到着した頃には、初期人口と比較すると大幅に減っていた。

 時は移ろい。
 フリューゲルに宇宙船が到着してから約480年後。ラトアーニャ君主共和国・南の都ルセナール。
 ルセナールにある大図書館の一つ、"紫煙の図書館/Irik Fergia"。ルセナールの繁栄の象徴として、君臨せし建物。
 その建物の地下には、タールウィル選帝侯――エリーゼ・シェルストリアの部屋があった。
 
 

 部屋に立ちこめる、甘い匂い。甘美な蜜の香り、しかし常人であれば意識が朦朧としてしまうような、劇薬。
 寝台の隣には、荒く、呼吸を繰り返す幼き少女。少し、"効きすぎた"のか、数分持たずに気絶してしまった。
 私はそのかわいらしい寝顔を見つめながら、彼女の髪を撫でる。

 "PiPiPi....."
 そこへ、無粋な通信音が鳴り響いた。余韻を楽しんでいたというのに、冷や水を浴びせられたような気分だ。
 衣服を整え、寝台の隣にある通信機を取る。通信の相手は、秘書の一人。
 気怠げな声で、通信に応じる。重要な連絡で無かったら、後でしっかり躾けようと思いながら。
 しかし。
 秘書のもたらした情報は私を歓喜させるに十分だった。
 
「……あら、そう?それは――」

 嬉しい誤算。まさか、彼の方から出向いてくれるとは――。彼が生きている事は、知っていたけれど。
 アズミリアの直系にも、興味はあったけれど、私の知るアズミリアはもういない。ずいぶん前に、寿命で亡くなったと聞いた。
 あのチームで、今も生きているのは彼と私だけ。
 聞けば、今ではかのレゴリス帝国の重鎮。彼との接触は、必ず私にとってプラスに作用する。

「さ、お持て成しの準備をしましょうか」

 長らく着ていなかった、大切なドレス。また着る日が来るとは思わなかったけれど。
 あの時と今では、私達は変わってしまった。貴方は変わっていなくても、私は変わり果ててしまった。
 それでも、一時。一時の夢でも、再会を喜ぶ事くらいは、許して欲しい。

―――480 years ago.

 その日は最悪の日だった。目の前で、仲間達が次々と力尽き斃れて逝く。
 しかし、それすらも私は最早"悲しい"と思えない程、人間らしさ――感情の欠落が進んでいた。
 魔物との、契約の代償。少しずつ身体を蝕まれ、作り変えられて行く。
 プリンセスと呼ばれる既知外の敵は、もうすでに目の前に迫っていた。

 彼との出会いは、私の初めての就職先である「オーダー・オブ・ワイルドファイア」。
 最終面接を行った会場で、私と同い年くらいの男の子がいた事は、少し記憶にあった。
 ただその頃の私は、アリオス兄様の手助けをしたくて、オーダーに志願したに過ぎなかった。
 彼の事は、同じチームに入った後もそれ程興味は無かったと言っていい。
 それでも、幾度も死線を彷徨い、その度に背を預けながら共に戦った戦友。時には自分を庇い、死から救い出してくれた。

 その彼が、襤褸襤褸の身体で尚、私を助けようとしている。死ぬかもしれないというのに。
 彼の後姿は、兄様によく似ていた。最愛の、唯一の家族であった兄様。
 魔物との戦いで、一年前に死んでしまった兄様。彼も、私を残して死んでしまうのだろうか。それは――"嫌"だ。
 "嫌"だと思った瞬間、"何か"が私の欠けた心を満たして行く。私は、敵に向かって走り――無数の氷の雨を、プリンセスに放ち続けた。
 そこから先は、もう殆ど覚えていない。無我夢中で戦い、気づいた時には手に一枚のカードをもっていた。
 足元には苦しそうに咽せながら血を吐く、彼の姿。助からない。一目見ただけで、それが分かった。
 ああ、私はまた残されてしまう。私にあなたを助け出すだけの力と、勇気があったなら。
 きっと、恐らく。そう遠くない未来で、二人で手を繋いで笑っていられたはずなのに。
 
 消耗し気絶している彼の頭を、自分の膝に乗せる。深い意味は、ない。暖かな布団の上では無いけれど。
 せめて、枕だけでも。彼の永い眠りが、安らかなものでありますようにと願いながら。
 暫くすると、彼が目を開けた。しかし、目の焦点は定かでなく、瞬きを繰り返すだけ。
 私は、そんな彼に必死に声をかけていた。助かるかもしれないと、そんな可能性の低い希望に縋りながら。
 だが彼は、どうやらもう耳が聞こえていないらしい。いくら声をかけても、返って来るのは苦しそうな呻き声だけ。
 私は、自分に出来る精一杯の笑顔で。流れる涙を拭いながら、彼に語りかけ続けた。
 すると彼は、私の頬を撫で。何かを、必死に。血を吐きながら私に言おうとして。そこで、息絶えた。
 彼の最期を看取り、私は。
 
「ごめんなさい、この言葉はもう貴方には届かないかもしれないけれど」
「ありがとう。――さようなら。」

 そっと、彼の頬にキスをして。ピンクスピネルの宝石の力を使い、辺りを劫火で包み込んだ。
 

 そして、今。
 遠い、古の記憶。所々の断片的な記憶だが、今でも鮮明に思い出せる。
 とても懐かしい記憶。彼は覚えているだろうか。そんな事を考えていると、駐機場に一人の人物が現れた。
 見知らぬ顔。でも、私には分かる。姿形こそ違えど、その魂は、相変わらず綺麗に"視えた"。
 

 ああ、この人が――。
 「……お久しぶりです。ヴァルターさん」
 数百年の時は、"とても"長かったです。

…To Be Continued

◆あとがき

執筆時間は一時間。文才は進化しません。何故なら、私の仕事は文才がなくてもいいからです:)
レゴリス先生のSSを見て少し描いてみよーと思いながら半ば自棄になって書きました。
恋愛要素が少し入ってますが、二度と書くなと自分を強く戒めました。

ちなみにこれはフリューゲルに至る前のお話が含まれています。もちろんIFの世界。
さあSFを題材としたSSを書きましょう:)

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