ウェールリズセ共和国・シェロジア共和国 和平会議

　ウェールリズセ共和国政府は本和平会議に基づき、フリューゲル暦 22018期において、必要最低限の目標は達成されたことから、宣戦布告を取り下げる。

シェロジア共和国は本和平会議に基づき、またウェールリズセ共和国の取り下げを受け、完全かつ最終的な事態の終結を確認する。

ヴェールヌイ社会主義共和国は、ウェールリズセ共和国並びにシェロジア共和国間の紛争が平和的解決で合意され、国際法上においても交戦状態は無効となりましたことを確認します。
（フリューゲル暦22020期611年8月下旬）

【ヴァシリー・サロート首相】
本件付随の諸問題はいまだ山積しておりますが、これらの解決に向けても、平和と相互理解を第一に、各国が協力していくことを期待しております。我が国も引き続き、率先躬行する所存です。ご出席いただきました両代表とその政府に、共和国政府を代表するものとして、あらためて感謝申し上げます。それでは、本会議を終了とさせていただきます。

【ウェールリズセ共和国特命全権大使　エミリオ・ド・メーストル】
　この和平会議開催にあたり、ご尽力頂いたヴェールヌイ社会主義共和国には多大な謝意と敬意を。そして、誠意ある謝罪に踏み切ったシェロジア共和国の英断に、我等が共和国の名において、評価を捧げます。

【スヴィトラーナ党政治局政府顧問】
エミリオ大使、このあとお時間ございますかしら?少しお話しがあるのですけれど・・・

【ウェールリズセ共和国特命全権大使　エミリオ・ド・メーストル】
　これは、スヴィトラーナ閣下。閣下からのお話とあれば無碍にする訳に参りますまい。私めでよろしければ、喜んで。

――共和国宮殿 バルコニー
バルコニーに出ると、庭園部のポールに掲げられたらヴェールヌイ、ウェールリズセ、シェロジアの国旗が見えた。テークサットの爆撃によって死傷したシェロジア国民に哀悼の意を表するため、いずれも半旗で掲揚されている。風は弱く、旗は無気力に垂れ下がったままだ。日はすでに落ちかけており、衛兵連隊の兵士が、敷地内のガス灯を点火してまわっていた。じきに国旗も降納されるだろう。

【スヴィトラーナ党政治局政府顧問】
閣下だなんて、いまは一介の議員にすぎませんわ。肩書きこそ大層にしておりますけれど、党の人気取りのようなもので....いけませんわね、与党が表面的な大衆迎合に励むようでは....とはいえ、おかげで全権大使として来られた方に足を止めていただけるのですから、悪いことばかりではないようですね。

お話はENECについてです。今回のシェロジア絡みの一件は、それをどの立場から判断するにしたって、結果として今後のENEC運営について悪影響となるでしょう。テークサットは言わずもがなですけれど、貴国もすでに議長国を辞する意思を表明していらっしゃいます。そうなってしまえば、いったい誰がイニシアチブを取れるというのでしょう？結成間もないENECは、人に例えるならば青年期、自己同一性を今まさに形成しようとしている時期です。将来有望なこの若者を、むざむざ失うことはしたくないと考えるのは自然なこと。
現実問題として、テークサットの理事国解任は免れません。議長国はコーデクス、理事国には貴国がつくにしても、理事が一か国足りませんわ。仕方がないことですけれど、ENECの刷新というには弱いのも事実です。オブザーバーである共和国や、ガトーヴィチにも立場上限界があるでしょう。
そこで、これはあくまでわたくし個人としての考えなのですけれども、ノホ・ヘレコ連邦の加盟招致を今一度行ってみてはどうかと思っているんです。六ヵ国協議での経緯、特に貴国は不快感を表明していたこともありますけれど、依然としてノホヘレコは有望な新興国であり、活躍がとても期待できるのではないでしょうか。それに、何でもものは考えよう。以前の経緯があるからこそ、加盟となれば組織イメージの刷新にも繫がり易いとも言えますわ。
幸い、ノホヘレコは共和国の友好国で、私にも強いパイプがございます。共和国と先方の政府はわたくしが何とかいたしますから・・・エミリオ大使、是非大使からこの件を総督閣下に伝えていただけないでしょうか。

【ウェールリズセ共和国特命全権大使　エミリオ・ド・メーストル】
　ふむ、ふむ。なるほど、お話については我が国政府も憂慮するところではありましょう。私は本和平会議における全権ですので、具体的に突っ込んだお話は出来ませんが、総督にご報告するくらいでしたら。

　しかしながら、我が国の外務省、とりわけ主流派ではノホ・ヘレコの加盟には厳しい見方をする者も少なくありません。かの国の動向には不透明な部分も多く、ENECという組織で、果たして利益を共有できるのか、理念を共有できるのか。先の六カ国会議での不信は簡単に拭い去れるものではありません。
　これは私個人の見解ですが……ノホ・ヘレコ連邦政府が、六カ国会議において自国のとった立場をどのように考えているか、そしてENECにおいてどのような役割を担えるのか、ENECに対する貢献を約束して頂けるのか、我がウェールリズセや、他加盟国と、末永く友好関係を結ぶことができるのか。
　仮に加盟をノホ・ヘレコ連邦政府が前向きに検討されたとしても、その辺りが明らかにされなければ、加盟採決において一波乱生むことになるかと思います。我が国のニコロ・フォスカリーニENEC常駐代表は私以上に厳しい見方をするでしょうから、その辺りも含め、よくよく御検討下さい。
　組織とは何も数を集めれば良いというものではない。それは、政権を長く担ったスヴィトラーナ閣下の方が私よりもずっとご存知でしょう。火種を残す事は今後の為になりません。昭栄国のFENA加盟にあたっての一悶着という前例もあることです。私どもはENECをただの一組織として終わらせるつもりはありません。貴国も同じ考えを持っていただけているものと思います。真に理念を、利益を共有出来る、強固な組織として、国際社会に旗印を掲げていきたいのです。

　おっと、話が長くなりましたな。私はただの官僚ですので、あまり迂闊なことはいえません。ともかく、総督に報告させていただきます。その上でどのような決断を下すかは、総督次第ですゆえ。

【スヴィトラーナ党政治局政府顧問】
エミリオ大使はさすがエリートでございますわね。わたくしのような学のないものは、もっと楽観的に考えているものでして・・・ﾌﾌﾌ、総督閣下には「アカを信用するのもたまには悪くない事ですよ」とでもお伝えくださいませ。

【ウェールリズセ共和国特命全権大使　エミリオ・ド・メーストル】
　閣下もご冗談がお上手のようで。総督には確かにお伝えしましょう。然らば。