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Re: 魔女のティータイム(Witch's Teatime)

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なし Re: 魔女のティータイム(Witch's Teatime)

msg# 1.2
depth:
1
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2014/6/25 21:58 | 最終変更
ゲスト    投稿数: 0

 Purgatorio Online内で最も人口密度の高い場所のひとつに、クエストカウンターと呼ばれる口入れ屋がある。
 冒険者たちはこのクエストカウンターで依頼される各種自動生成される依頼をこなし、日々の糧を得ている。
 中でも一日に一度だけ出現するデイリークエストは効率がよく、これがプレイヤーたちを毎日ログインさせている呼び水ともなっている。
 現実の水銀貨の港を模したその街のクエストカウンターは今夜も盛況だった。ベテランや初心者が攻略や効率の良い狩場を相談し、レアアイテムの自慢をし、謎の新ダンジョンの噂をする。パーティの募集の看板の傍らのテーブルでは、戦利品の分配清算が行われている。
 その人混みの片隅で、異様な雰囲気を漂わせる女魔術師がひとり。物憂げに、あるいは不機嫌そうに黒い魔導書のページをめくっていた。彼女の事を知らない男女が何組かパーティに誘おうと声をかけるが、彼女はまるで聞こえていないかのように無視を決め込むために、周囲からの評判は極めて悪かった。
 やがて時刻が24時となり日付が変わると、誰からも無視されていた彼女は突然立ち上がって、クエストカウンターの依頼人NPCたるフィズリリーナと二三会話を交わし、デイリークエストを受理して出立していった。
「…何アレ。感じ悪い」
「ぼっちオーラが酷いな」
「ラフィリー・ウジェーヌです」
 誰かがぼそっと漏らし、フィズリリーナがバインダーを片手にそれに応えた。
「ラフィリー? ランキング常連の?」
「はい。Arch Wizardですが属性はNormal-Dark。…暗いのはそのせいでしょう。とてもお強いのですが誰ともパーティを組もうとしないのです」
「は? じゃあソロで高レベルダンジョン潜ってるの?」
「すげぇ! :o」
「いやあ、単にどこにもパーティにいれてくれないだけじゃないの:(」
「lol」
「www」
 
 
 
 聖餐教皇庁を模したダンジョンの深階層に女魔術師がいた。黄金の光を放つ水晶球で前を照らし、物憂げに、あるいは不機嫌そうに通路を歩き、階段を下っていく。
 ラフィリーの行く手を阻むのは黒き影の様なものや、宙に浮かび牙を剥く本たち。
 壁役たる前衛職がいないために足止めや攪乱の魔術を行使し、攻撃魔法の詠唱時間を稼いで処理していく。回復職がいないために歩みや詠唱は繊細に、丁寧に、確実に。──そして完璧に。危険なそこを彼女は無傷で歩いてゆく。
 そして豪奢な図書室に辿り着き、宙に浮かび、本棚の高所の一角に自らの持っていた黒い魔導書を納めて、代わりに隣の魔導書を抱えて、ゆっくりと降りてゆく。
「……私の所にも来たの。夢魔」
「はい。貴女の魂を奪おうかと思いまして」
 ラフィリーの着地したそこに、フィズリリーナが待ち構えていた。
「私は忙しいのだけれど」
「どうかお付き合いを」
「上位悪魔に敬意を払わないでもないわ。ご用件は」
 物憂げに、あるいは不機嫌そうに女魔術師が椅子に座り、魔導書を支えに置く。側にある巨大な惑星儀が少しだけ動いた。
「貴方の目的についてです」
「……」
「教皇庁出禁の魔導書を読み漁って、一体何をしようとしているのでしょうか」
「…秘密」
「では、推測します。まずは前提から。ラフィリー・ウジェーヌ。貴方はこの国の最高位の魔女です。企業連合の総裁で、貴族で、暗黒街の首領です」
「……」
「富も地位も名声も、望むものはなんでも手に入るでしょう。ナターシャのように、レゴリスの前総統のように、若返りや老化遅延ですら実現可能でしょう。でも貴方はいま熱心に、マテリアルの時間を犠牲にしてまでPurgatorioにログインして、こうして書を貪っている」
「……」
「貴方は誰ともパーティを組まない。マテリアルでも他人に心を開かない。それは自身の目的を隠したいから。後ろ暗いことだから」
「……」
「教皇庁出禁の魔導書は、この国の魔術の精髄です。であれば目的は絞られます。最高位の魔術の行使だと」
「……着眼点は良いわ。当てられる?」
「どこかに巨大隕石を落とす? 貴方はそんな低俗な人ではない。違う。
 異世界へのゲートを開き旅に出る? 貴方には養うべき者が多い。これも違う。
 魔神となってナターシャに取って代わる? そのような気負いは感じられません。違います。
 …人間が望む願望の典型。それは喪って、もう戻らないものを取り返すこと。
 つまり…、<復活/Resurrection>あるいは<時間遡行/Time upstream>です」
「……正解」
「どこまで辿り着きましたか」
「肉体の再生まで。遺体を魔力を動かしてもゾンビになるだけだし、遺体の遺伝子をもとに培養しても、記憶を持たない大きな赤ん坊が生まれるだけ。…魂の再生は実に難しい」
「…はい。そこで、夢魔の提案を聞いては頂けますか」
「当てて見せましょうか」
「…どうぞ」
「貴方は私の魂を奪いにきた。貴方の魔法とは夢魔の業/Dreammancy」
「…はい」
「それは夢と幻と運命を操るもの。他を望むように変える黒き魔法ではなく、自分が変わることで世界を変える白き魔法。それは逃避の魔法。諦めと慰めの魔法。弱者と敗者の魔法。葡萄を手に入れられなかったキツネが、あれは酸っぱいんだと思い込むように」
「……」
「復活なんて…神話ですら達成した事例なんてない。だから貴方は、私の思い出や記憶から彼のイメージを写し取って、彼が生きているという都合の良い夢を見せてくれるのでしょう?」
「…お見事です。夢魔の究極の業は犠牲者の心の奥底に住む、もっとも大事な人の姿に化けること。私が彼の姿をとって、彼の性格や挙動を、貴方が死ぬまで完璧に演じてみせましょう」
「でも、ばれてしまっては仕方が無いわね」
「…はい。残念です。貴方ほどの高貴なる魂はなかなかありません」
「不可能事であることはわかっているの。だから、いつか絶望して、堪えられなくなったら貴方を呼ぶわ。その時はその姿のまま慰めて」
「はい。よろこんで:)」

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