レゴリス-ガータ・ベルンダ間に於ける次期主力戦闘機契約交渉

ガータ・ベルンダ第二帝政に於ける次期主力戦闘機導入計画は大詰めを迎えていた。計画にはRMIのみが参加を表明し、ここに至って契約交渉が行われることとなったのだ。
交渉が行われる場所はハイネセル州のハイネセル空軍基地。この場所が選ばれた理由としては、ハイネセル空軍基地の直ぐそばにRMIの大規模な軍事工場が立地しており、生産工程や実機の見学には丁度良かったというものが挙げられるだろう。

ガータ・ベルンダの代表がハイネセル国際空港に到着したとの報告を受け、国防大臣であるテレーゼ・バルシュミーデ予備役陸軍上級大将、そしてRMI会長にしてR.R.グループ総帥のゲオルギーネ・レゴリスはハイネセル空軍基地の会議室に代表を案内させるよう手配し、両者は一足先に会議室で待機していた。

テレーゼ国防大臣
　・・・よもや、我が国の戦闘機を導入しようとする国がいるとは思わなかったわ。

ゲオルギーネ会長
　珍しくこちらから売り込んだのだから当然だろう。今までは座して待っていたことが多かったからな。因みに、まだ導入は確定していないのだが・・・。

テレーゼ国防大臣
　だけれども、対抗馬がいない以上実質決まったようなものだわ。良かったわね。貴方の会社がまた丸儲けするわ。

ゲオルギーネ会長
　ああ、お陰で私の懐は温まるばかりだよ。軍需産業は儲かるからな。特にレゴリスみたいに軍需企業がほぼ一つしかない国だとボロ儲けだ。ガータ・ベルンダには戦闘機以外にも海軍艦艇などを売り込みたい所だが、まぁまずはこの交渉に集中するとしよう。

テレーゼ国防大臣
そうね。そろそろ代表が来るそうだし、準備しましょうか。

　レゴリス帝国・ハイネセル空軍基地に到着したガータ・ベルンダ帝国政府の代表。会議室への案内を受け、廊下を歩いていた。
Said：ダヴィド・ド・デュパール国防大臣
　ふむ。流石にレゴリス帝国の空軍基地、我が国とは比べものにもならんな。超大国の看板はただ飾ってある訳でも無いということだ。当分降ろすこともないだろうて。
　ところで、大将。緊張しているのかね？緊張しているのならば、今すぐ緊張を解くといい。緊張していると足元を見られ易い、重要な交渉だが相手に一筋縄ではいかないと思わせることも大事だ。

　何なら、極道の連中よろしくレゴリスの代表にガンを飛ばしても良い。最も、帝国軍人がそこらのチンピラと同じ扱いを受けても困るがね。不審者と間違えられてその場で射殺されても、私は助けてやれん。そうだな、可愛い部下の葬式くらいには出てやろう。

Said：アロイジウス・リューベナッハ空軍次官
　閣下はご冗談がお好きなようですな。まあ、それなりに緊張はしていますが、それでも交渉を成功させる自信だけはありますとも。
　自国産ジェット戦闘機を開発するためにも、レゴリスの技術の吸収は最重要課題ですから。……さて、着きましたか。

　会議室に入る二人。そこにはレゴリス帝国の国防大臣テレーゼ・バルシュミーデ予備役陸軍上級大将、R.R.グループ総帥のゲオルギーネ・レゴリスが待ち受けていた。

Said：ダヴィド・ド・デュパール国防大臣
　これは、これは。初めましてですな。今回、本交渉のガータ・ベルンダ帝国政府の代表として本交渉を請け負うことになりました。
　現在は国防省の長を拝命している、ダヴィド・ド・デュパールであります。

　それにしても、エルツ内戦の英雄殿に、レゴリスの誇るレオン・レゴリスグループの総帥閣下が自ら交渉に臨まれるとは。お会い出来て光栄であります。
　御二方は遠い田舎から来た私どもをご存じないかもしれませんが、私どもは写真やメディア媒体やら何やら、今の時代は便利なものでして、よく存じております。
　そして、お美しい。いやはや、長旅の疲れも癒されるというものです。

　おっと失礼、こちらの仏頂面をしている男はアロイジウス・リューベナッハ、現在は国防省の空軍次官を務めております。
　一応、過去には旧型とはいえジェット戦闘機のエースパイロットでしてな。私は陸軍畑で育ったため、高射砲で撃ち落とす対象としての空軍機しか知りませんが、彼ならよく知っていることでしょう。

Said：アロイジウス・リューベナッハ空軍次官
　デュパール閣下よりご紹介に与りましたアロイジウス・リューベナッハと申します、フラウ・バルシュミーデ，フラウ・レゴリス。
　本契約交渉において、デュパール閣下の代理人を担当させて頂きます。

　しかし、ここに来るまでの道中、デュパール閣下も私もずいぶんと驚いたものです。我が国の風景とはまるで違う。
　写真でレゴリスの都市風景を見たことはありましたが、いやはや、世界に冠たるレゴリス帝国といったところでしょうか。
　その貴国のレゴリス・ミリタリー・インダストリーズが我が国のJPFIPへの参加を決めた際、国防省の重役は皆、仰天致しました。それも、提案機が超大国であるレゴリス帝国の主力戦闘機とまで呼ばれる、かの名機Le-19多用途戦闘機　ノスフェラトゥであると分かった時は、言うまでもなく。

　参加の提案を全面的に歓迎した上で、ライセンス生産や修理工場の設置、国内独自改造などを容認して頂きたいと考えておりますが、中には難しいというものもあるでしょう。ブラックボックスの中身がいかに重要であるか、私も空軍に関わる者としてよく知っているつもりです。

　予備交渉の段階で否定されているスペックダウンについての議論は不要と考えますので、これらについて見解をお聞かせ願いたく存じます。

テレーゼ・バルシュミーデ国防大臣
　こちらこそ初めまして。レゴリス帝国政府代表として今回の交渉に参加致します、国防大臣のテレーゼ・バルシュミーデと申しますわ。
私も、ダヴィド・ド・デュパール閣下やアロイジウス・リューベナッハ閣下とお会いできて光栄です。

　エルツ内戦の英雄というのは言い過ぎですよ。私は国防大臣の立場から帝国軍を指揮したに過ぎません。
そう呼ばれ、賞賛されるべきなのは、エルツ内戦に際し、現地において帝国軍を指揮し、内戦終結に大きく寄与したターニャ・ディブリーク陸軍上級大将らの軍幹部の方々でしょう。
えっ、う、美しい・・・ですか。そのような事を言われたのは久方ぶりです。お言葉がお上手ですね、デュパール閣下。

　こちらにいる女性はゲオルギーネ・レゴリス。既にご承知でしょうが、R.Rグループの総帥を務めている方ですわ。
彼女はRMIの会長も務めている他、今回売り込むLe-19多用途戦闘機　ノスフェラトゥの基本設計にも一部携わっているようです。
ですから、陸軍一筋だった私よりLe-19に詳しいでしょう。

ゲオルギーネ・レゴリス
　ただ今バルシュミーデ国防大臣よりご紹介に預かった、R.Rグループ総帥・RMI会長のゲオルギーネ・レゴリスという者だ。
ダヴィド・ド・デュパール閣下、並びにアロイジウス・リューベナッハ閣下、本日の交渉ではどうぞお手柔らかにお願いしたい。

　世界に冠たるレゴリス・・・。レゴリス帝国の国歌の名前や歌詞に使われているフレーズですな。
この歌が国歌として採用された時はそうではなかったが、今では歌詞通り世界に冠たる国家として君臨している。
貴国は今現在こそ新興国の一カ国に過ぎず、レゴリスの風景と大分違うだろうが、いずれ貴国も発展しレゴリスと同様の風景となるでしょうな。
なにせ貴国は先進国になり得る素質を持っている。一部の者共はそうではないと異論を挟むだろうが、私は少なくともそう思っている。

　話が逸れたが、ノスフェラトゥを気に入って頂けたようで何より。開発者冥利に尽きるというものだ。
ライセンス生産や修理工場の設置、国内独自改造については、全て容認する。
　但し、搭載予定の火器管制レーダーCAESARについては、ブラックボックス化させて頂こうかと考えている。
これは帝国空軍が現在保有するノスフェラトゥの最新版であるトランシェ3が搭載しているレーダーで、これを解体・解析されてしまうとRMIとしても、帝国空軍としても非常に困るのだ。
その対価とは言っては何だが、CAESARのブラックボックス化を了承して頂けたら、トランシェ1や2に搭載しているCAPTORの実物と各種資料をお渡ししたいと考えている。
CAPTORはCAESARの改良元の火器管制レーダーで、探知能力等で劣るが、貴国独自の火器管制レーダーの開発には多いに役立つと思うが如何だろうか？

Said：ダヴィド・ド・デュパール国防大臣
　ははは。所詮は爺の言葉、あまり喜べるものでも無いでしょうが、これでも若い頃は女性に――おっとまた脱線しかねませんな。
　それにしてもバルシュミーデ殿も陸軍一筋とは。また機会があれば陸軍戦術の談義でもしたいものですな。両国軍の合同演習の機会などあれば。

Said：アロイジウス・リューベナッハ空軍次官
　デュパール閣下、その辺りで。

　我が国も急速な発展を遂げております。これもひとえに貴国を含めた諸外国の援助に、皇帝陛下を中心に帝国臣民が国力を高めるべく困難にめげることもなく奮起している結果といえるでしょう。
　早ければ563年から564年の間にNIEs（Newly Industrializing Economies）の仲間入りを果たせるやもしれません。
　いずれにせよ、従来の文化を失うことなく、近代化に努めたいものです。

　ライセンス生産や修理工場の設置、国内独自改造の容認、ありがとうございます。火器管制レーダーCAESARのブラックボックス化については異存ありません。
　ミサイルの距離・精度ともに現在の空軍では最重要といっても差支えないもの。流石に最新鋭の火器管制レーダーまで頂く訳にも参りますまい。
　一世代前とはいえ、CAPTORの資料を頂けるとなれば、我が国の前時代的な軍事技術も飛躍的に進歩することでしょう。

　ただもう一点、実物と資料だけでは聊か不安がありまして。技術者数名の貴国工場における研修を認めて頂きたい。それに加え、貴国の技術者数名を我が国に2年、いや1年で構いません。派遣して頂くことは出来ませんか。
　技術指導はどうしても必要でして。我が国最大の研究機関である帝国航空宇宙技術研究院でも技術解析を行わせますが、それでも不安は残りますので。

テレーゼ・バルシュミーデ国防大臣
　まさか、人に美しいと言われて喜ばない女性なんていませんわ。

　陸軍戦術の談義ですか・・・素晴らしいですね。機会があれば是非ともしたい所です。
両国軍の合同演習等については、総統閣下と統合作戦本部総長に相談してみましょう。意外と許可が得られるかもしれませんから。

ゲオルギーネ・レゴリス会長
　従来の文化を失うこと無く近代化を成し遂げるのは難しいことだが、それに成功することを心よりお祈り申し上げる。

　火器管制レーダーCAESARのブラックボックス化とCAPTORの提供に同意して頂き感謝する。これでこちらの懸案事項は解決できた。やっと胸を撫で下ろすことが出来るというものだ。
技術者数名の研修をRMIの工場で行うこと、及び貴国での技術指導にRMIの技術者を派遣することについては承諾する。
貴国の派遣する技術者は数名でも数十名でも構わない。特に人数制限は設けるつもりは無いので、多くの技術者の受け入れが可能とお伝えしよう。
受け入れ先の工場は恐らくここの空軍基地に隣接しているハイネセル工場となるだろう。
後で工場内を見学して頂く予定ではあるが、ここではノスフェラトゥの他にもステルス戦闘機のヴリコラカス等が製造されている最新鋭の工場だ。貴国の技術者達の良い刺激になるだろう。