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Historia derramado
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- Historia derramado (ノイエクルス自由国, 2013/6/11 3:17)
- Historia derramado -story2 (ノイエクルス自由国, 2017/7/8 4:18)
Story 1. ある航空機会社の格納庫にて
ブリンディジ島の北端、グランモンターニャ山脈のふもとに広がる都市、ラ・デフェンサ。
そのひときわ山に近い一帯は森と草原に覆われており、人気は少ない。
そんなさびしい土地に本社を構えるある機械メーカーがある。
「なんで君がこの視察のお供に選ばれたんだ?モンタナ航空発動機のマーケティング部は社長の道楽に付き合うほど暇ってことなのかい?」
ジェレミア社長は軽妙なハンドルさばきで年代物の南瓜車をいなしつつ、片手でコーヒーを啜っている。
「あの、理由はよく分からないんです。部長からお前行ってこい、としか言われてないんで。」
「新人君か。たらいまわした挙句ってとこかな。まあ、運が悪かったと思って付き合ってもらおうか。」
運が悪かったとか自分で言って良いのか―そんな思いを飲み込みながら苦笑いを浮かべ、
窓の外に目線をそらすと、深い森の向こうに試験場やら試作工場やら格納庫やらが見えてきた。
本社から車で15分。技術部の城、そしてわが社の心臓とも言うべき巨大な区画が見えてきた。
起動試験を明日に控えた最新型の旅客機 AL-470の最終点検に立ち会う事が今回の視察の目的となっている。
AL-470を見たい!と、社長がだだをこねるので仕方なくお守り付きで格納庫に行かせたという実しやかな
うわさも流れているが、断じて嘘だと信じたい。
実は僕自身も、内心少しAL-470に興味がわいていた。
何しろ、ひょっとしたらこの機体がモンタナ航空発動機の伝統を受け継ぐ最後の機体になるのかもしれないのだから―――
格納庫に入ると整備員はほとんど撤収済みのようで、高齢の技術者が一人、エンジン近くで何やら作業を行っていた。
「素晴らしい、いやしかし何度見ても素晴らしい機体だ。」
確かに日の光を受けて輝く機体は、目を見張るほどの美しさだった。
「今度の博覧会に出せなかったのが惜しいですね」
「ルーシェヴェルギアスでやっている奴か。もとから日程が合わなかったし。それに…」
「それに出しても売れはしないだろう。」
意外な言葉だった。
普段マーケティング部が社長に言い続けてる事を、まさか社長の口から聞くことになるとは。
「一体どうしたんですか?AL-470はまさか何か問題点を抱えてるんですか?」
慌てて顧客リストを取り出し、AL-470を既に契約した会社の名前を確認していく。
「いやいや、そうじゃない。AL-470は完璧な機体だよ。ただ性能を発揮できる条件が特殊なんだ。ノイエみたいに都市間が200キロ程度しか離れていなくて、鉄道が敷きづらい地形じゃないといけないからね。」
「君も知っている通り、わが社の飛行機は全てターボプロップエンジンを積んでいる。ターボプロップエンジンが真価を発揮できるのは時速700キロ以下で飛んだ時だ。」
「それ以上出すと燃費が悪くなっちまうからな。」
突然聞こえた声に思わず上を向くと、エンジン整備士がメンテナンス用タラップから身を乗り出しているのが見えた。
「おやっさん、居たんですか。」
「整備屋が格納庫にいるのは当たり前だろうが。社長がここにいるのは珍しいがな。」
「で、だ。飛行距離が1000キロだとジェット機で1時間、ターボプロップ機で2時間かかるからジェット機のほうが断然有利なんだがな、200キロ程度なら飛び上がる時間の分、ジェット機は分が悪いって寸法だ。」
「その通り。ただこれは国内線に限った話だ。国際線なら、当然長距離を飛べるジェットエンジンのほうが優位に立っている。マーケティング部が言っているのはそういう事だろう?」
「え?ええ、そうです。国内線の航空機市場だけでなく、国際線や海外市場でも戦える機体を作るべきです。国内線専用のターボプロップ機なんて時代遅れですよ。」
突然話を振られて戸惑ってしまったが、マーケティング部が常々主張していることだけあって口からスラスラ言葉が出てくる。
「ターボプロップなんてもう時代遅れだ、か…。」
鈍く輝く機体を整備士と社長がじっと見つめている。技術部上がりの社長と整備士の間では、何か通じるものがあるのかもしれない。
「まあ、まずはAL-470を飛ばして、納品しようじゃないか。今後の商品戦略はその後検討する事にしよう。」
そう言って整備士に向き直ると社長は一礼し、明日は頼むと告げると格納庫の出口に向かった。
格納庫の出口に向かった私を追いかけて、マーケティング部の新人が後からついてくる。
「先に出口で待っていてくれないか。もう少し見ていきたい。」
そう告げると、踵を返して機体の方に向き直った。
天窓から差し込む夕陽を反射して赤く輝く機体。重なった二重反転プロペラが描き出す複雑な影模様。
これほど美しい機体が、この世界での居場所を無くしていくというのか。
私の目の黒いうちは…。しかしこれからのわが社を担うのは、彼らみたいな若手なのかもしれない。
答えは出ないまま、AL-470を見据えてじっと立ち尽くしていた。
~Fin~
―連邦主義―
「曰く、兄弟愛で切り拓く我らの祖国」
―連邦主義―
「曰く、領域における安定した漸進的な社会改革」
―連邦主義―
「曰く、まどろみの中に見る白昼夢」
…
……
………
その日、連邦議会は大荒れだった。
ヴォルネスク独立を認める事は連邦が掲げてきた「民族を超えた連邦体制」を否定する事に他ならない。
400年の間、ノイエクルス連邦は度々存亡の危機に瀕した。しかしそれらは外部の攻撃であって、連邦体制の大義が揺らいだことは一度として無かった。
連邦体制の大義、理想、ガトーヴィチ帝国らの軍事的優勢、ヴォルネスクを維持する倦怠感、そして現実主義。ヴォルネスクなど一度も足を踏み入れたことのない議員が大多数だった。
永劫とも思える年月の間、繰り返し唱えられるマントラに抑圧された、行き場のない感情が議場に吹き荒れていた。「連邦市民としての連帯、兄弟愛でヴォルネスクと共に歩もう。」「それは結構だがね、奴らの賃金は誰が払ってるんだね。」
ヴォルネスク維持経費の負担に悩む自由国の商人たちとヴォルネスク文官上がりの理想主義者たち。壮大で、壮麗で、確信に満ちていたはずの連邦主義は民族主義の一撃で無残にも砕け散った。
否、もともと生まれつつあったヒビに最後の一撃が加えられたに過ぎない。
つまりサヴォナローラ議員が決議案を提出した日、連邦議会はバラバラになっており、意見など纏まりようが無かった。
辛うじて一致していたのはスラヴ連合に深刻な打撃を与えるまで戦争を継続する事、その一点のみであった。
そんな中、サヴォナローラ議員が浮き輪を投げ入れた。連邦の責任と栄達を否定せず、ヴォルネスク独立をその跡を継ぐ事業に位置付け、ヴォルネスク市民を父の遺産に感謝する善良で分別のある若者かのように描き出した。
すなわち、これは連邦建設の最終章であり、連邦建設の遺産を受け継いだヴォルネスクは威風堂々独立国家として国際社会においてその地位を立派に全うする、という筋書きだ。
昨日まではヴォルネスク人をティーンエイジャーのように扱っていた事を忘れ、立派な成人として扱おうとする変節っぷりに連邦の焦りが見て取れた。
………「それではサヴォナローラ議員が提出した決議案を、満場一致で採択します」
湧き上がる議場。ひそひそ声が聞こえる「これで維持拠出は即時撤廃だな?」「選挙での争点に…」「労働者連盟の切り崩しは…」「社会保障の改革とバーターで…」
秘密警察が解体され、連邦軍が撤退したヴォルネスクの波止場町を歩く。
町では暴動や犯罪が相次ぎ、建物はどれも落書きされていた。
臨時政府が新しく創設した民主警察は予算も人も足りず無力でしかなかった。
「ガトーヴィチ人の先生が『スラヴ語の本以外読んではならぬ』って言うの」ある小学生は語る。
「でも図書館にはスペイン語の本しか無いのよ。それにスラヴ語なんて知らないわ」
「ノイエクルス人が出て行ってから強欲な連中がわしの農場に居座りおった。」ある老いた農民は語る。
「民族に忠実な自分たちこそ、土地を持つ権利があると抜かしおる。わしの営農許可証には紙切れほどの価値もないだと。おお、全能の連邦よ、わしらを守りたまえ。」
「あそこに大きな店が見えるでしょう?」あるご婦人は語る。
「もともとは地区協同生活用品購買・貯蔵・分配公社でね。あそこに行けば必要なものは何でも買えたの。」
「たまたま店長をやってた男がノイエクルス人が出て行った日、全部自分のもんにしちゃったのよ。」
「それ以来価格が2倍になって、ろくに食料も手に入らない有様。今日も代用コーヒーよ。」
―だが、それでも―
「政治パンフレットをあと5000枚印刷。総選挙ですよ、総選挙。僕たち選挙ができるんです。」
あるヴォルネスク国立行政学院の学生は嬉しそうに語った。
「今までも地方選挙はありました。でも政党は限られてたし、どうせ連邦軍と官僚で決められるんだから。」
「地区評議会とか、共同住宅評議会とか、数えきれないほどの評議会や委員会がありました。話し合うのは植え込みに植える花の種類とか、次のパーティーで使うお茶菓子とか、少しましなところでは保育料を0.5%値上げするかしないか。」
「僕たちはおままごとみたいな選挙で、毒にも薬にもならない事をグダグダと論じる委員会を選び出し、大事なことはノイエクルス人が決めて動かしていた。それを自治と呼んで満足していたんです。」
「混乱?望むところです。もっと、もっと混乱を下さい。まどろみのような社会にはうんざりしているんです!」
彼らはどのような未来を掴み取るのか。それが何であったにせよ、本人たちが掴み取ったという事実こそ、
重要なのだろう。