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Historia derramado

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  • なし Historia derramado (ノイエクルス自由国, 2013/6/11 3:17)

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ノイエクルス自由国

なし Historia derramado

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 | 投稿日時 2013/6/11 3:17
ノイエクルス自由国  新米   投稿数: 5

Story 1. ある航空機会社の格納庫にて

ブリンディジ島の北端、グランモンターニャ山脈のふもとに広がる都市、ラ・デフェンサ。
そのひときわ山に近い一帯は森と草原に覆われており、人気は少ない。
そんなさびしい土地に本社を構えるある機械メーカーがある。

「なんで君がこの視察のお供に選ばれたんだ?モンタナ航空発動機のマーケティング部は社長の道楽に付き合うほど暇ってことなのかい?」
ジェレミア社長は軽妙なハンドルさばきで年代物の南瓜車をいなしつつ、片手でコーヒーを啜っている。
「あの、理由はよく分からないんです。部長からお前行ってこい、としか言われてないんで。」
「新人君か。たらいまわした挙句ってとこかな。まあ、運が悪かったと思って付き合ってもらおうか。」
運が悪かったとか自分で言って良いのか―そんな思いを飲み込みながら苦笑いを浮かべ、
窓の外に目線をそらすと、深い森の向こうに試験場やら試作工場やら格納庫やらが見えてきた。
本社から車で15分。技術部の城、そしてわが社の心臓とも言うべき巨大な区画が見えてきた。

起動試験を明日に控えた最新型の旅客機 AL-470の最終点検に立ち会う事が今回の視察の目的となっている。
AL-470を見たい!と、社長がだだをこねるので仕方なくお守り付きで格納庫に行かせたという実しやかな
うわさも流れているが、断じて嘘だと信じたい。
実は僕自身も、内心少しAL-470に興味がわいていた。
何しろ、ひょっとしたらこの機体がモンタナ航空発動機の伝統を受け継ぐ最後の機体になるのかもしれないのだから―――

格納庫に入ると整備員はほとんど撤収済みのようで、高齢の技術者が一人、エンジン近くで何やら作業を行っていた。
「素晴らしい、いやしかし何度見ても素晴らしい機体だ。」
確かに日の光を受けて輝く機体は、目を見張るほどの美しさだった。
「今度の博覧会に出せなかったのが惜しいですね」
「ルーシェヴェルギアスでやっている奴か。もとから日程が合わなかったし。それに…」
「それに出しても売れはしないだろう。」
意外な言葉だった。
普段マーケティング部が社長に言い続けてる事を、まさか社長の口から聞くことになるとは。
「一体どうしたんですか?AL-470はまさか何か問題点を抱えてるんですか?」
慌てて顧客リストを取り出し、AL-470を既に契約した会社の名前を確認していく。
「いやいや、そうじゃない。AL-470は完璧な機体だよ。ただ性能を発揮できる条件が特殊なんだ。ノイエみたいに都市間が200キロ程度しか離れていなくて、鉄道が敷きづらい地形じゃないといけないからね。」
「君も知っている通り、わが社の飛行機は全てターボプロップエンジンを積んでいる。ターボプロップエンジンが真価を発揮できるのは時速700キロ以下で飛んだ時だ。」
「それ以上出すと燃費が悪くなっちまうからな。」
突然聞こえた声に思わず上を向くと、エンジン整備士がメンテナンス用タラップから身を乗り出しているのが見えた。
「おやっさん、居たんですか。」
「整備屋が格納庫にいるのは当たり前だろうが。社長がここにいるのは珍しいがな。」
「で、だ。飛行距離が1000キロだとジェット機で1時間、ターボプロップ機で2時間かかるからジェット機のほうが断然有利なんだがな、200キロ程度なら飛び上がる時間の分、ジェット機は分が悪いって寸法だ。」
「その通り。ただこれは国内線に限った話だ。国際線なら、当然長距離を飛べるジェットエンジンのほうが優位に立っている。マーケティング部が言っているのはそういう事だろう?」
「え?ええ、そうです。国内線の航空機市場だけでなく、国際線や海外市場でも戦える機体を作るべきです。国内線専用のターボプロップ機なんて時代遅れですよ。」
突然話を振られて戸惑ってしまったが、マーケティング部が常々主張していることだけあって口からスラスラ言葉が出てくる。
「ターボプロップなんてもう時代遅れだ、か…。」
鈍く輝く機体を整備士と社長がじっと見つめている。技術部上がりの社長と整備士の間では、何か通じるものがあるのかもしれない。
「まあ、まずはAL-470を飛ばして、納品しようじゃないか。今後の商品戦略はその後検討する事にしよう。」
そう言って整備士に向き直ると社長は一礼し、明日は頼むと告げると格納庫の出口に向かった。

格納庫の出口に向かった私を追いかけて、マーケティング部の新人が後からついてくる。
「先に出口で待っていてくれないか。もう少し見ていきたい。」
そう告げると、踵を返して機体の方に向き直った。
天窓から差し込む夕陽を反射して赤く輝く機体。重なった二重反転プロペラが描き出す複雑な影模様。
これほど美しい機体が、この世界での居場所を無くしていくというのか。
私の目の黒いうちは…。しかしこれからのわが社を担うのは、彼らみたいな若手なのかもしれない。
答えは出ないまま、AL-470を見据えてじっと立ち尽くしていた。

~Fin~

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