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Re: ヴォルネスク・イン・ザ・ダーク
投稿ツリー
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ヴォルネスク・イン・ザ・ダーク (ゲスト, 2014/6/10 21:41)
- Re: ヴォルネスク・イン・ザ・ダーク (ゲスト, 2014/6/10 21:47)
- Re: ヴォルネスク・イン・ザ・ダーク (ゲスト, 2014/6/12 18:38)
- Re: ヴォルネスク・イン・ザ・ダーク (ゲスト, 2014/6/15 13:02)
- Re: ヴォルネスク・イン・ザ・ダーク (ゲスト, 2014/6/20 4:34)
- Re: ヴォルネスク・イン・ザ・ダーク (ゲスト, 2014/6/26 0:16)
- Re: ヴォルネスク・イン・ザ・ダーク (ゲスト, 2014/6/29 22:54)
- Re: ヴォルネスク・イン・ザ・ダーク (ゲスト, 2014/7/18 23:59)
「ゾロアスターの神官と水泥棒」
ゴルゴダのムラは貧しくとも平和な農村だった。
そのムラはゾロアスターの宣教師たる私を受け容れ、農民たちは太陽が昇るより早く起き出して祈りを捧げ、農作業に出かける。ラジオから聴こえる情勢は不穏の一途を辿り、ついにはエーラーン本国ですら撤退したが、私は結局ムラに残り、子供たちに文字と計算を教え、農作業の指導を続けている。
…いや、続けていた。
その慎ましい心安らかなる日々は、ある夜現れたシュオルドレッドと名乗る少女により、全てがひっくり返ってしまった。
その夜のうちにムラ人たちは誘惑され、神聖なるゾロアスターの聖堂は、夜通しで行われる白濁と背徳の宴の舞台となった。
そのメイド服に身を包んだ少女、シュオルドレッドが、教団上層部の言うヴォルネスクに巣食う悪霊、淫魔人形であることは明らかだった。
ムラ人たちが信仰を捨て、暴力を崇拝し、農作業を放置して酒と暴力と姦淫に溺れるのに一週間もかからなかった。悪党、匪賊の群れと化した彼らが、隣のムラを襲う算段をしていたのを見て、私はムラからの逃亡を決意した。
私は逃亡を前にして、聖堂の地下へと降り立つ。
昨日、ムラの外からやって来て、井戸水を勝手に飲もうとしたところを取り押さえた水泥棒を解放するのだ。このムラにいても待っているのは死か堕落しかない。牢の鍵を外す音に、部屋の隅にうずくまっていた男がこちらを見やる。
「…処置が決まったのか」
「いや、私はこの村から逃げる。君も付いてくるのだ」
「渇きに苛まれていたとはいえ水を盗んだことは事実。その報いから逃げるつもりは無い」
「水泥棒にしては殊勝な態度だ。だがこれは脱獄ではなく避難といって差し支えない。マズダー神もご理解くださるよ」
水泥棒を立たせ、手を引いて地上へと赴く。近くで見た水泥棒はみすぼらしい襤褸を着ていたが、筋骨隆々の、しかし静かで知性的な雰囲気を漂わせた男だった。
地上から女の悲鳴が聞こえた。淫魔人形は夜にしか現れない。昼間、悪党どもの劣情と暴力の犠牲になるのは村の女子供達だ。
「…あれは」
「見るな。隠れろ。無視してバイクを奪うんだ。マズダー神もご理解くださるよ」
「マズダー神は不正義を放置することはない」
悪党どもの群れに歩みよる水泥棒に、私は驚愕した。あれらは人間ではない。人を人とも思わぬ獣。人屑。ヴォルネスク人。銃や大砲もなしにその凶行を阻もうなど、自殺行為だ。
制止と拒否。短い問答ののち、悪党がヌンチャカを振りかざして水泥棒に襲いかかった。「やられた!」と目を瞑った瞬間に、水泥棒ではなく悪党の悲鳴が響き渡った。恐る恐る目を開けると、水泥棒はそこに何事も無く立っていた。足下で首と胴体が離ればなれになっているのはヌンチャカの男。
何が起こっているのか解らなかった。水泥棒は徒手空拳で、十数人のモヒカンの大男たちの暴勇をいなし、刃を避け、鎖を引きちぎり、逆に手刀、蹴業、石礫にて倒して、瞬く間に暴力集団を壊滅させた。
「この戦いはマズダー神のものだ。マズダー神はお前たちを我々の手に渡される」
…まさか。彼はまさか。そんなはずは無い。彼は死んだはず。
「南東聖拳はミスラの拳。闇を打ち払う戦士・軍神の拳なり」
エーラーンが認めた救世主。ダヴィット。
虚像ではない。実在している。
過去に暴拳の君主ジャックに討伐されたと記録されているのに、彼は、そこに在る。