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「山岡の別れ」
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明日香宮皇帝紀元121年11月18日
「正統吉備皇国」帝都室満京
正統吉備皇国陸軍航空騎兵団団長、楠木雅茂大佐は、自分が憤慨している事を、その形相と歩き方で辺りの人間に喧伝しながら、大望殿謁見の間を後にした。
「兄者!」
詰め寄ってきたのは、弟の楠木雅末少佐、そして一人息子の雅貫だった。
「主上は何と?」
雅茂は今日、石動陸海親衛三軍と在石幹国防衛隊からなる「足利連合軍」に美作を明け渡した上で、帝都決戦に誘い込み、一挙に迎撃してしまうという作戦を帝に提案するため、宮中に参内していた。足利軍15万、南朝軍3万という彼我兵力を考えれば突拍子もない苦肉の策にも聞こえるが、敵は地方鎮護の陸軍一般部隊に、新生帝都の地勢に疎かろう幹国防衛隊…。少なくとも美作市で闇雲に正面衝突を期するよりは理に敵った策といえた。しかし、それに対する十善の君の御応えは厳しいものだった。
「『玉体を帝都から遷すなぞ現人神としては出来る相談ではない』とか抜か…仰られた」
「何抜かしてくれとんなら!あん小娘はぁ!!」
「落ち着けえや雅末!」
激怒する雅末を雅茂が一喝した。
「仕方ねかろーが。皇帝陛下の勅命は絶対じゃ。ワシらは一回「やる」ゆうてしもうた。もう後戻りは出来んのじゃ。軍人として、武家として、男としてじゃ」
飄々と口にされた石動弁には、男の決意が滲み出ていた。
「しゃあねぇなあ。着いてっちゃるわ!兄者!」
「私も行きます!」
息子、雅貫が叫んだ。
「雅貫、ええか、おめぇを連れてくこたーできん。父上らはこれから死にに行くんじゃ。雅貫!これだきゃあ覚えとけ。こんな才色兼備のええ男をこんな場末で死なすブラック皇帝様やこーぜってぇ長生きせん!その腰巾着が造ったお国もじゃ!雅貫!お前はお前の行きたい方へ行きゃあええんじゃ!」
13歳の息子に言い残した二人の男は、振り返らずにその場を去った。