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新田最期
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明日香宮皇帝紀元122年3月25日
埴輪県埴輪市
激しい戦いだった。
帝国臣民を護るための戦車は農民の田畑を踏み荒し、硝煙立ち込める鉄火場と化した「のどかな農村」を駆け回っていた。田畑が踏み潰されるという事態に於いて農民にとっては南朝も北朝も無かった。現地民の軽トラックは、自分達の財産が悉く蹂躙されていくのを後目に、力なく鉄火場の中を逃げていった。
北条幕潘体制下の頃から新田潘民として暮らしてきた彼らは、言うなれば新田一族の護るべき「領民」であった。紗代が倒幕加勢を決意した時に、反対する所か勇んで兵として志願した領民達だったが、この時ばかりは紗代に失望とも憐れみとも着かぬ視線を向けている事を感じつつ、紗代は部下達を鼓舞するために叫んだ。
「戦車一中隊は私と残れ!後のものは速やかに撤退!」
「左府も!紗代様もお退きを!」
紗代第一の部下、新田氏の宿将、船田正毅大佐が叫んだ。紗代は応える
「できん」
「紗代様!」
「多くの士卒を失い、一人逃げ仰せるこの新田紗代ではない!船田、娘を頼んだ」
「…御意!」
船田との通信を切った紗代は、最後まで自分と戦い続ける事を選んだ精鋭一個中隊に告げる。
「傾聴!残存兵力は蛭山(ひるぜん)を越え、捲土重来を期し大海洋側へ脱出!我らはこの時間稼ぎを…」
言い終わらぬ内に、紗代は流れ弾で鉄帽をカチ割られ、そのまま指揮通信車から転がり落ちた。そこはねっとりした水田だった。先ほどの衝撃で脳震盪を起こし、うまく立ち上がれない紗代は、泥の中を無様に滑り回った。
「紗代様!」
そう言って装甲車から部下が降りてくるなか、紗代はまだ水田の中でもがいていた。
「…これもっ!貴様のっ!!…貴様らの筋書きかあァッ!!…尊子ぉッ!道興ぃッ!!」
泥まみれの彼女の「最期」を、もう一発の流れ弾が終わらせた。