石動・アルビオン首脳会談

675年12月19日、石動第三帝国とアルビオン連盟王国はスコッチランド時代から数えて3回目、39年ぶりとなる首脳会談開催を行うこととなった。

前回及び前々回は石動第三帝国において行われたが、今回の首脳会談は初めてアルビオン領内において行われることとなった。

ペンドラゴン国際空港（アルトリウス1世記念空港）には大勢のマスコミが押しかけ、女王メアリー3世及び王配カンバーランド公フランシス夫妻は空港において寒波吹き荒ぶ中、石動首脳到着を待ち続けていた。

　二機の48式戦闘機シナトベを伴い、征夷大将軍専用超音速機「御翼」が着陸。白亜の機体から金の袈裟を纏った足利滿子大御所、ゆっくりとタラップを降りる。

足利滿子「恐れ多くも直接の御出迎え、痛み入る次第で御座いますわ、陛下。この度麗しき御龍顔を拝せました事、誠に恐悦の至りにございます。王配陛下に於かれても、ご機嫌麗しゅう。御評判通りの美丈夫であらせられます事。うちの業昭（大将配日野業昭）の厚ぼったい顔を思い出すと、羞恥のあまり目を覆いたくなってしまいますわ。
スコッチランド、もといアルビオンの高貴な御方と会うのは実に数十年ぶり、とても懐かしく感じておりますわ。また私が生きている内にアルビオンの美しい国土に足跡を遺せました事、万感胸に迫る思いでございます」

メアリー3世：
大御所殿下直々の御来訪心よりお待ちしておりました。
まず先年の祖母にして先王アルトリウスの弔文感謝申し上げます。殿下の心のこもった弔文に祖母も喜んでいることでしょう。

殿下は39年前、そして殿下のお母上であられる晶子殿下は79年前に共匪、いえ共産政権時代の元首とお会いになっておられると聞き及んでおります。
実にほぼ1世紀にわたる両国の友好の歴史を今後も永遠のものとすべく、若輩者ではございますが今回の会談の成功は先人から引き継いだ私の使命として捉えていきたいと思います。

フランシス王配：
ようこそおいでくださいました。
私は今回の会談にて接待の総責任者もつとめさせていただいております。いろいろご不便おかけすることもあると存じますが何卒ご容赦いただきたく。
実は他国の要人の方とお会いするのは初めてでしていささか緊張しております。
妻の面前でこのようなことを申し上げるのは何でございますが殿下も噂に違わぬ美貌をお持ちなこと、ぜひ美容の秘訣を伝授していただければと思います。ペンドラゴンの地下からは美容に良い温泉が湧きでております。滞在中ぜひお楽しみください。

さて、南国石動と違い我が国は非常に寒冷でございます。
お風邪を召されるといけませんので送迎車にお乗りくださいませ。

(キャメロット宮会見の間)
メアリー3世：
まずFuCoSTOにおける貴国の主導的役割に関しては実に頼りになることこの上なく思います。
しかしここ最近一部の国家による資源の独占という事態が目立っており、一部国家による世界の私物化が進行しているという意見も多々見受けられ、私個人としても重大な問題としてこれを捉えております。
私見ではありますが、石亜両国の国益のみならず世界の諸国の利益を考慮しての行動は称賛されこそすれ非難されるいわれはないと考えております。この件に関しては貴国政府と意見を同じにすると思われます。

足利滿子「全く以て陛下と同意見でございますわ。例えば、商品輸出国でありながら、工業人口の三分の一位上の商業人口を有する「先進国」が、この世界にはおります。その様な非効率的な工業国が、貴国のような高い生産性を誇る優秀な工業国とは裏腹に、燃料を必要以上に浪費するのは分かり切った事。しかし彼らはその様な、フリューゲルの限りある貴重な燃料を無下に浪費する非効率的工業を顧みることもなく、資源輸出国の燃料購入権を恣にしております。この様な、我が国風に申せば「道義に反する」行為こそが、国際社会の利益と協調を踏み躙る、唾棄すべき態度と言えましょう。
果てはその様な貿易秩序を乱す癌の様な国家が加わった、軍事力を背景に国際社会を意のままに操ろうとする悪辣な集団が居たとすれば、我々はその様な、覇道によるフリューゲル一極支配を目論む危険極まりない勢力に対し、断固として抵抗を続けていかなければならないでしょう。
陛下の仰る通り、我々二国がこれまで行ってきた行動は全て国際社会の利益・協調・平和維持に貢献する行為であった事は、この前武衛としても疑いようがございません」

メアリー3世：
聡明な殿下でしたらお分かりいただけると信じておりました。
我らは崇高な理想を掲げ前進していかなければなりません。
当然ながらその途中様々な障害がありますが、両国が協力すればそれを乗り越えていくことができると確信しております。

そもそもFuCoSTOにおける分業体制は一方的な吸い上げではなく、互恵の関係によって成り立っております。富が一方の国家に偏ったりするような体制ではありません。
ところが一方対極に位置する商工業並立体制を取り低い生産性で資源を食いつぶすような国はフリューゲルにおいてもはや有害でしかないのです。
今ギリギリのところで世界の経済は回っておりますがいずれこれが破たんするのは明白です。
先王アルトリウス1世は即位以来近代化と工業化を目指していく過程で「先進国」の視察を繰り返しましたが、いずれの国も経済に関して全くの無知で参考になる国家はなかったと回想しております。

ところで先日世界工業総生産高がついに一時的に約50兆にまで低下したという報告書が出ました。そのうち30兆ほどが我が国ですから我が国以外の工業国はほとんど資源がなく生産がストップしたということになります。
いよいよもって世界における資源の希薄化が問題となりつつあります。この原因は非効率運営によって経済を回し、無軌道に人口爆発を続ける国家こそが問題であると断じるほかありません。
人類の発展度合を図るために人口増加は確かに重要な参考ですが、増えた人口を支える計画がろくにない中人口増加を繰り返すのは愚の極みです。
有限な資源をどのように分けるのか。
自国の増えた人口を支えるための資源を理由に他国から資源を奪う戦争など馬鹿らしいというほかありませんがその未来が確実に近づいていることはあらかじめ警鐘を鳴らしていかなければなりません。
そのことを予見してか祖母はこのように述べています。
「一つしかないものはわけあえない。わけあえないものは奪いあう。奪いあえばたりなくなる。争わず、奪いあわずに美しく生きていくには命の数を抑えなければならない」
このようなことを述べていたうえで、我が国は人口抑制政策を伝統的に実施してきました。
その結果、資源を節約しつつしっかり根を下ろした、強力な生産力を持つ国を建設することに成功しました。
我が国を経済的モデル国として世界に宣伝できればこれに過ぎたる光栄はありません。

足利滿子「仰る通りでございます。彼らは自分たちの表面上の発展と豊かさを喧伝せんがためだけに、無下に人口を増加させ、フリューゲル社会を窮地に追いやっているようにしか見受けられません。かつて地球時代の日本国は、徳川政権簒奪期に人口を急上昇させましたが、食糧供給はこれに全く追いついておらず、慢性的な栄養事情の悪化は、日本人の体格を恐ろしくみすぼらしいものにしていきました。これは徳川偽幕府の悪行の一つとされています。この様な自国で養う事の出来ない異常な人口を抱える事は、勿論愚かな事でございます。しかし、その様な異常な人口を支えるために、武力を背景に資源国の輸出枠を独占し、世界経済にに負担をかけるような国家は、愚かであるどころか、醜悪とすら評せましょう。
　先王陛下の素晴らしき理想に則った貴国の人口抑制政策は実にすばらしいものと存じますわ。商業国である我が国としても、研鑽する必要があるかも知れません。貴国は人口抑制と工業特化産業の両立に成功した非常に優秀な工業国でございます。我が国としても、かかる素晴らしい国が同盟国であることは、誠に喜ばしい事でございます。アルビオン式工業政策は、今後工業国としての発展を目指す新興諸国にとりて、範とすべきモデルケースとなりましょう。」

メアリー3世：
我が国は確かに経済的には成功したかもしれませんが将来にわたってこれを守り切れる自信は今のところありません。
ご存知の通り我が国の軍事力は先の人口抑制策で土地開発に制約が付くためどうしても陸軍力は脆弱になりがちです。
貴国のような強力な陸軍国が後ろ盾についていれば我が国の海軍を存分にお使いいただくことで十分な安全保障となることでしょう。
しかしながら、世界のパワーバランスはまだまだ偏っているというほかはありません。とくにエルツ帝国とアルドラド帝国の衰退は世界のパワーバランスに大きな影響を与えており深く憂慮しております。
現実的に平和を維持するのに最も適切なのは勢力均衡だと思います。
無論、理想は全ての国家が武器を放棄すること、それかすべての国家が一つにまとまって純粋に平和のためにその力を行使することです。
既に多くの先進国が一か所に集まり世界の事象について会議する機会が出てきていますが、その実情は私が想定するものとはいささか違うように思えます。
FuCoSTOこそがこの理想を実現するのに最もふさわしい母体となることは疑う余地はありません。将来的にはこの軍事同盟を国際同盟に発展させることが私の夢でもあります。
それと経済体制はブロック化が進んでいるという指摘が以前からありましたがブロック化が進んで困るような国からこのような指摘が出ているという点も政治的な意味合いがあるものとして十分考慮すべきです。
ところで最近我ら両国は経済制裁により一部の国との取引ができなくなりましたがそれによって一層の経済ブロック化が進んだのは何の冗談かと思ってしまいましたわ。
もっとも、我が国は制裁前より豊かになりましたから経済ブロック化には反対する理由はありません。
それにしても政治というのは常に先を見続けなければいけないのだと若輩ながら思ってしまいましたわ。いろいろと勉強になります。

足利滿子
「　エルツ・アルドラド両国の機能停止は実に悲しい事でした。彼の国々はその軍事的実力と共に、国際社会に於いて秩序を維持し平和を希求する事の出来る理性を有している国々でした。かの国々の凋落は、これからの国際情勢にますます暗い影を落としていく事でしょう……。
　仰る通り、イデオロギーや体制の異なる数多の国家が割拠し、それでいてかつての地球時代の「国際連合」の様な「国際社会から信任を得た」国際組織が存在しないフリューゲルに於いて、目下現実的に平和を実現する方法は勢力均衡以外無いでしょう。しかしこれとて、永遠に続くものでは在りません。世界規模にしろ、国内規模にしろ「統一」は「意志」によって達成されるものですが、「均衡」は「惰性」によって保たれているものにしか過ぎません。その「均衡」が氷細工のごとくいとも簡単に崩れてしまったことを、我々人類は地球時代の二度の世界大戦と、フリューゲルに凄惨な犠牲をもたらした491年戦争で体験することとなりました。だからこそ我々は、合法的かつ国際平和を危うくしない様な手段を以て平和裏に、最終的なフリューゲルの「統一」を成すべきであると考えております。これまで国際平和を危うくするような危険な行動を取らず、国際秩序の維持に努めてきたFuCoSTOがこれに相応しい事は、言うまでもありません。陛下が同じお考えでいらしたことは、この前武衛としてもまことに嬉しく思います。
　確かに、経済のブロック化を一挙に進行させたのは、件の集団国交断絶でございますわね。あのようなフリューゲル史上稀に見る愚行をよもや目の当たりにするとは、思いもよりませんでしたわ。我が国としても、件の国々からの交易途絶で困るような事はまるでございません。域外に於いて関係を維持する諸友邦との交易はこれからも推進していく所存でございますから、「ブロック経済」と言い切るには少々語弊があるかもしれませんが、そもそもその様な言葉はかつて彼らが我々を非難するために持ち出した言葉ですから、気にするだけ無益と言えましょう。
　若輩者だなんてとんでもない。ご即位間もない陛下が、かくも聡明に国際情勢を見通しておられることに、前武衛はいたく感嘆しております。陛下なら、偉大なる先王陛下の様に、ご治世の発展とFuCoSTOの邁進を成し遂げられる事でしょう。」

メアリー3世：
先王や殿下と比べられると己の未熟さを恥じるばかりではありますが、お言葉ありがたく頂戴いたします。
未熟ではありますが今後も微力を尽くしたいと思いますわ。
じつに貴国こそ我が国の終生の友邦たる国家でございます。
いかがでございましょう、この会談の後、会談の成果、両国の意志を全世界に発表しコミュニケを出すというのは。
今後の両国の方針を世界中に公表するのがよろしいかと存じます。

さらにこの後、王国議会で殿下よりお言葉を頂戴したく思います。ぜひ我が国臣民に向かって貴国の立場を明確にしていただければ幸いです。

そののちは晩餐会となっております。
各界の名士がぜひ殿下と一言挨拶をかわしたいと先日から宮殿に押しかけてきております。ぜひお楽しみくださいませ。

足利滿子
「　かしこまりました。是非コミュニケを発表しましょう。
　王国議会での演説ですか…承知いたしましたわ。僭越ながら一席講じさせていただきます。
　この度は有意義な会談にお招きいただき、誠にありがとう存じます。お蔭で貴国が我が国と志を同じくする同盟国であるという事を再認識することが出来ました。では、後ほど」