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カレスティア蒐書

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 | 投稿日時 2013/10/2 21:53 | 最終変更
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ティユリア連合王国(カレスティア)関連のアンソロジーを投稿します。

投票数:0 平均点:0.00
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿.1 | 投稿日時 2013/10/2 23:08 | 最終変更
ゲスト    投稿数: 0

Episode 1  アクアマリンの雨

 ぽつり。
 アクアティアラの路上、大学帰りの若い男が空を見上げる。
「今夜は雨が降りそうだな……」
 彼は家路を急いだ。

 ロマノス・フォカス。カレスティアの名門公爵家の長男。

 物静かで穏やかな彼がアクアマリンへの留学を希望したのは、アクアマリンの元首リエラ・エアリーヌ少女王がティユリアへ来訪したことがきっかけだった。
 端的に言ってその時に彼はリエラに恋をしたのだが、名門の出で世間知らずの18歳は、そのような感情を知るはずもなかった。いままでに経験したことのない感情、けれども温かく優しい感情――。

 家風は厳格、名誉を重んじる公爵家。
 カレスティア女王エイレーネ1世の妹セオドラが嫁いだのが、ユリウス王国の家臣から興った名門フォカス公爵家だった。彼はそのセオドラのひ孫にあたり、現カレスティア国王と遠い血縁関係にある。
 父はアクアマリンへの留学を快諾してくれた。

 雨は彼が寮にたどり着くよりさきに大降りとなった。
「天気予報じゃ晴れだったんだけどねえ」
 寮母はずぶ濡れになったロマノスにタオルを渡しながら、声をかけた。
「天気予報といっても、占いみたいなもんだけどねえ。あなたの母国じゃあ、気象衛星を使ってちゃんと当たる予報をしてくれるんだろう?」
「それはまあ……」
 言葉に詰まる。アクアマリンではミサイルはおろか、ロケットの打ち上げすら行われていない。気象衛星ぐらい先進国ならどこでももっているものだが、それを打ち上げる技術すら持っていないのだ。正確に言えば、持とうとしていないのだ。

「いま温かいコーヒーを入れてあげるからね」

 ふと窓から外を見ると、空一面に黒い雲が広がっている。
 雨はやみそうにない。

投票数:0 平均点:0.00
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2013/10/2 23:10 | 最終変更
ゲスト    投稿数: 0

Episode 2  雷鳴とともに

 窓に打ちつける雨粒――その日も雨だった。

「……左様でございますか……確かに……」

 雨音に混じり、遠くに雷が光った。

「ええ……それは承知しております。ですが……それほどの大役を……ええ……わかりました」

 しわだらけの顔の老人は受話器を置き、白髪の頭を抱えた。

 ――果たしてそのような大役が務まるだろうか。
 息子、ロマノスはアクアティアラに留学したことがあり、その内情に通じているかもしれない。アクアマリン王室とも交流がある。しかし、この役目は重すぎるのではないか……。

 一瞬にして昼間のように明るくなった書斎。
 雷鳴が響く。

 老人は受話器を取り上げ、女中を呼びつけた。

 ◆

「ロマノス、答えは出ているな?」
 白髪の父は息子に問うた。
「はい」
 息子は父の顔を見る。

「よろしい。では早々に準備をしなさい。政府には私から連絡を入れておく」
 受話器に近づけた手を止め、息子の目を見る。

「いいか、一週間もすればお前はこのカレスティアという国を背負っている」
「ひとつの国が、数千万の臣民の命がお前の肩に乗ることになるのだ。そして」

 一瞬言葉を切った。

「この公爵家を背負うのだ」

 そのとき、雷光が書斎を照らし、しわだらけの父の顔を脳裏に焼きつけた。
 遅れた雷鳴が書斎の窓を揺らした。

 ――ロマノス・フォカス公爵殿下を在アクアマリン・連合王国特命全権大使に任ずる。

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