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Re: フリューゲル異伝スレッド

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レゴリス帝国

なし Re: フリューゲル異伝スレッド

msg# 1.23
depth:
1
前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2013/9/16 2:41
レゴリス帝国  一人前   投稿数: 84

 フリューゲル490年のある日、レゴリスの若手政治家であるヴァルター・ディットリヒは、レゴリス帝国帝都ブリンストに存在する二大ハブ空港の一つであるガストン・ホルスマン国際空港の国際線ターミナルに居た。
 公務で諸外国に外遊するという訳でも無く、単なる私的旅行であった。
 目的は、数百年ぶりに会う旧知の人物との再会である。

 ヴァルターは自らが乗るラトアーニャ君主国首都アウセクリス行きの便が出発間際ということをアナウンスで知り、空港についてから購入したレゴリス土産を両手に抱えながら搭乗した。

 数百年ぶりに会う旧知の人物との再会を心待ちにしながら。

Flugel Another Story Regolith Side vol.2

「数百年ぶりの再会 前編/Reunion of several hundred years the first volume」

 アウセクリス行きの便は数カ国の空港を経由している事からフライト時間が長いことで有名で、ヴァルターはその暇を潰す為、旧知の人物のこと、そして自分のことについて思い出していた。

 482年前…ヴァルターは「恒星間宇宙船ジャスリー・スリー」という名前のついた宇宙船に乗っていた。
 地球からこの惑星フリューゲルへ向かう移民船のひとつである。
 その宇宙船では魔物と呼ばれる魑魅魍魎が猛威を振るっており、航行と人類は存続の危機に陥っていた。
 あの化け物たちの正体は未だに判らない。だが人類は持てる限りの技術と努力を持って反抗した。
 肉親親戚全てを殺され孤児となってしまったヴァルターもまた「オーダー・オブ・ワイルドファイア」と呼ばれる、民間警備会社の革を被った準軍事組織に入り魔物らに対する復讐を果たそうとしていた。

 ヴァルターがオーダーに入隊後、彼は複数のメンバーと共に新たなチーム「フィブリノーゲン」を結成した。
 そのメンバーの中には今回彼が会う旧知の人物、エリーゼ・シェルストリアが居た。

「初めてエリーゼと出会った場所はオーダーへ入る際の最終面接の時だったな…。」
 ヴァルターはそう独り言を呟く。
 最終面接を行った面接会場には体格の良い人がかなり多かった事もあり、小柄なエリーゼはかなり目立っていた。
 それがヴァルターと彼女の初対面であった。
 不安げに椅子に座る美少女の姿を、ヴァルターは今もはっきりと覚えている。
 もっとも、言葉掛ける勇気など無く、すれ違っただけだったが。

 彼女を含めたフィブリノーゲンのメンバーらは、魔物たちとの最前線に配置された。ただ強化手術を受けただけの、充分に訓練も受けていない新兵たち。復讐心だけを買われた、使い捨ての少年兵。だがオーダーの予想に反し、フィブリノーゲンは生き残った。いつのまにかオーダー内で「最強のチーム」と呼ばれるようになるほどに。
 エリーゼは当初からの戦友だった。境遇はほとんど同じ。だが人生を奪われただけでなく、霊媒化の犠牲者たるエリーゼはなお悲惨であっただろう。
 エリーゼは魔物の玩具として、食糧として、あるいは肉体のスペアとして、魔物の都合のいいように肉体を造り替えられていた。異様な色合いの髪と瞳。不老、不妊、鋭敏な身体、魔物への本能的な畏怖と服従──。彼女は自分自身すら喪失していたのだ。
 エリーゼへの同情と憐憫の情は幾度かの任務と戦闘を重ね、信頼と共感へと変わった。生死と共にしたという、吊り橋効果があったのかもしれない。ヴァルターの中ではエリーゼへの好意が芽生え、気がついたら彼女を愛するようになっていた。
 最も、ヴァルターはそれをエリーゼに告白することは遂に無かったが。

 少年と少女は多数の犠牲の上で、数えきれぬ魔物を駆除した。彼らは慎重でかつ大胆であったが、それだけで勝利や生存は約束されはしない。明日をも知れぬ、死と隣り合わせの日々。
 だがそれはヴァルターにとって、それは輝かしき熱と光の時代だった。初恋の季節。何百年経っても忘れ得ぬ日々。だが、それはある日突然途絶えることになった。他ならぬ自分自身の死によって。

 油断していたわけではない。しかしヴァルターはそのとき判断を誤った。
 プリンセスと呼称されたその未知の魔物はチームの予測を遙かに上回る存在だった。
 正解は逃げの一手であったかもしれない。しかしそれを行うには背後に匿っている生命の数が多すぎた。チームは抗戦を選択し──未知の攻撃により壊滅した。
 覚えているのは、動けぬ身体でプリンセスに止めを刺されていくメンバーたちを見ている光景。少女の姿をした魔物の操る蛇が、メンバーの喉を、太股を、脇腹を噛み切り咀嚼するたびに、恍惚とした悦びの声が魔物から漏れる。一人殺され、二人殺され、次に魔物が狙いを定めたのは──エリーゼ。
 ヴァルターは肉体の限界を超えて立ち上がった。骨は折れ、神経は寸断されている。肉体の修復も追いつかない。なのに立てる。今思い返せば、サイコキネシスの力で肉体を持ち上げていたのだろう。残り少ない命で、魔物を灼滅するために。

 ヴァルターが最期に見た光景はエリーゼに膝枕されているものだった。
 彼女は泣きながら何かを喋っているが、ヴァルターにはもう聞こえなかった。
 ヴァルターは気がついたらエリーゼの頭を撫でていた。
 そして言葉を掛けようとするが、言葉の代わりに出てきたものは血だった。
 ヴァルターは一気に気が遠くなるよう感じ、そのまま意識が途絶えた。

 次に気がついた時はある病院のベットの上だった。
 ヴァルターは混乱していた。
 自分の体を見てみたが、どう考えても自分の体では無かったのだ。
 彼は18歳でありながら、比較的小柄な体だった。だが今の体はそれよりかなり大きい。
 トドメに看護師から自分のではない名前で呼びかけられた。
 ヴァルターは発狂しそうになったが、何故か自分のとは別の記憶があったので、そこから情報を引き出しつつ生活を行う事にした。
 …後にヴァルターは知るが、彼は死の間際に精神寄生の術を無意識に習得し、フィブリノーゲンの戦闘に巻き込まれ死に掛かっていた一般市民に自らの魂を移していたようだ。

 ヴァルターは古巣のオーダーに戻ろうとしたが、今の容姿では自らがヴァルターであることを証明できないと悟り諦めた。
 それから230年ほどが経ち、恒星間宇宙船ジャスリー・スリーがフリューゲルに到着した。
 その時のヴァルターは既に何度か精神寄生を行い、何人もの体を渡り歩きつつ生き長らえていた。
 エリーゼに何時か邂逅できると信じて。

 だが、恒星間宇宙船ジャスリー・スリーはフリューゲルに到着した数週間後には他の星を探し求め出発してしまった。
 その理由は、惑星フリューゲルから発せられる特殊な電磁波によりジャスリー・スリーの大半のコンピュータが不具合を生じること、そしてジャスリー・スリーを制御する超AIと呼ばれる人工知能もまた、その影響に受け動作不良を起こす等の問題が判明したからだ。

 入植を中止することに伴い既に地上に降りた者達にも撤収するよう勧告が出されたが、ヴァルターはフリューゲルに残ることにした。
 エリーゼもこのフリューゲルに残っている。そんな気がしたから。

 その後、ヴァルターは裏でレゴリス帝国の前身の前身であるレゴリス首長国連邦の建国に携わり、レゴリスの地で一市民として暮らしていた。
 レゴリス帝国が再建国され、現政権の前の政権であったビュットナー内閣の頃に当時の与党国家社会主義レゴリス労働者党に入党。
 党員として、帝国議会下院議員として活躍し有名になる。
 ヴェルトミュラー政権に移った頃は党官房長として、国家社会主義レゴリス労働者党解党後は極右政党黄金の夜明け党首として活躍した。

 黄金の夜明けでの内部対立が激しくなった頃にヴァルターは突如黄金の夜明けからの脱退及び現与党レゴリス保守党への入党を発表し世間を騒がせた。
 そして気がついたらレゴリス保守党幹事長を務め、更には帝国外務副大臣も兼務していた。

「うーん……時の流れというものは早いな…。」
 ヴァルターはまたしても独り言を呟く。

 余談だが、ヴァルターはヴェルトミュラー政権の頃に魔術結社レメゲトンに入り、そちらの方でも活躍していた。
 その活躍が目に止まったのか、【色欲/Begierde】のリーゼロッテの推薦によりトントン拍子で昇格し、遂には7大幹部にまで上り詰めた。
 7大幹部になる際には空席であった【傲慢/Hochfart】を名乗った。
 何故かは知らないが、それ以降リーゼロッテからは「傲慢の坊や」と呼ばれている。

 閉話休題。
 フリューゲルに入植してからもヴァルターは暫くエリーゼの所在を知らなかったが、ラトアーニャ君主国の報道等により同国に居ることを最近知った。
「エリーゼがラトアーニャに・・・。」
 同国の報道によると、エリーゼはラトアーニャ君主国のタールウィル選帝侯として活躍し、同国の国家元首である統領の座を巡って現統領の妹アイリス・キルヒアイゼンと対立しているらしい。

 ヴァルターはエリーゼがラトアーニャに居るということを知ってから、無性に彼女に会いたくて仕方がなかった。
 その気持からか公務が滞りがちになってしまったこともあり、帝国総統であるリーゼロッテより「貴方は少し休みなさい」と言われてしまった。
 総統にそう言われた以上、休みは取らざるを得ない。ヴァルターは2週間ほどの休暇を取って、ラトアーニャに居るエリーゼに会うことにしたのだった。

「──お客様、お客様」
「…眠っていたのか。」
「ええ、そうですよヴァルター様。当機はアウセクリスに到着しました。貴方が機内に残っている最後のお客様ですよ。」
「これは失礼した。直ぐ降りよう。」

 旅客機の搭乗口からタラップを用いて駐機場に降りると、その目の前に数台の黒塗りの自動車とSPと思われる男性が数名、そして1人の女性が立っていた。

 ヴァルターと目線を合わせ、何故か確信したような表情をした彼女はこう口を開いた。
「…お久しぶりです。ヴァルターさん」

…To Be Continued

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